「糞ぉッ、糞糞糞ッ!! どうして何もかもが上手くいかねぇんだ!?」
自宅――ボロ長屋の一室で、薄い酒をあおりながら毒づく。
……今日も、デブの領主サマに嫌味を言われた。
『街』はますます栄える一方じゃないか――って。
『街』にゴロツキを歩かせるのは上手くいかなかった……金に釣られた冒険者どもによる警備で、治安はかえって良くなっちまった。
盗賊の真似も、失敗した。
いまじゃ商人ギルドが規則を作っちまって、護衛なしじゃ西の森を通れないようにしちまったらしい。
オークも、クリスが集落ごと滅ぼしちまったって話だ……せっかく、高い金を出して魔物寄せの香を買ったっていうのによぉ!
「糞ッ、何もかもクリスの所為だ!! あいつさえいなけりゃ――…」
……いや、待てよ?
糞……そうか、糞か。
■ ◆ ■ ◆
「つ、つ、疲れたぁ……」
夜中。
王都自慢のスイートルームのベッドに倒れ込みながら、心の底からつぶやいた。
「うん……」
「確かに疲れましたわ……」
シャーロッテとノティアが、至極自然な様子で僕のベッドに倒れ込む。
お師匠様? お師匠様は女性陣の為に取ってある部屋に入っていったよ。
「……寝ちゃだめだからね……ちゃんと自分たちの部屋に戻るんだよ?」
「「はぁい」」
『お風呂事件』からこっち、このふたりの僕に対する距離感が異様なほどに近い。
……まぁいいや、とにかく僕らはようやっと、魔王様から解放されたんだから。
一週間もの間、魔王様に連れ回された。
『余が自ら、王都観光ツアーの案内人となろう!』という言葉の通り、変装した魔王様によって、王都中を案内された。
バフォメット様も含め、誰も魔王様を止められなかった。
魔王様は、お師匠様のことを奥さんでもある先王アリソン様だと勘違いしている点以外は割とまともなお方で、多少強引ながらも、僕らを楽しませるべく王都一周ツアーのガイドに徹してくださった。
僕ら平民相手に偉そうぶることもないし、なんというか無邪気で気さくなお兄さんという感じ。
僕とシャーロッテはすっかり魔王様に懐いてしまった……まぁ、僕らが魔族で、魔王様による【従魔】影響下にあるからなのかも知れないけれど。
実際、お師匠様とノティアは僕らほど魔王様に心酔していないようだったから。
で、最後の晩餐会が終わって、やっと解放されたってわけ。
「ノティア、明日の朝には向こうに戻りたいんだけど……お願いできる?」
「承知しましたわ」
■ ◆ ■ ◆
「【瞬間移動】!」
翌朝、『街』の自宅である屋敷内へと【瞬間移動】する。
3階の一室であるこの部屋は、通称『【瞬間移動】部屋』と言って、ノティアが【瞬間移動】で現れる為の、それ専用の部屋だ。
そうやって部屋を分けておかないと、いきなり使用人の前に僕らが現れて相手を驚かせてしまったり、最悪『接触事故』が起きるから、そういう措置を取っている。
「いや~、久しぶりの我が家!」
言いながら部屋のドアを開けると、
「町長様ぁ!! お待ちしておりました!!」
目の前に、ミッチェンさんがいた。
泣きそうな顔をしている――いや、泣いている。
「な、何があったんですか!?」
「じ、じ、じ、実は――…」
■ ◆ ■ ◆
「な、なんてこと……」
居間のソファに座りながら、僕は天井を仰ぐ。
――――――――疫病発生。
2日前から難民村で腹痛を訴える人が続出し、昨日からは難民以外からも体調不良者が出ているのだそうだ。
それで、原因は『西の森』に棲みつく魔物たちの瘴気だとか、戦争で無くなった西王国の兵士たちの怨念が難民を祟っているのだとか、そんな根も葉もないウワサで街中で持ちきりらしい。
「…………死者は?」
「幸い、いまのところはゼロです」
「良かった……お師匠様、お願いできますか!?」
「もちろんさね」
もともと旅装だったお師匠様が、マントを羽織り、とんがり帽子をかぶり、そしてマジックバッグから杖を取り出す。
凛々しくも頼もしい、自慢のお師匠様だ。
自宅――ボロ長屋の一室で、薄い酒をあおりながら毒づく。
……今日も、デブの領主サマに嫌味を言われた。
『街』はますます栄える一方じゃないか――って。
『街』にゴロツキを歩かせるのは上手くいかなかった……金に釣られた冒険者どもによる警備で、治安はかえって良くなっちまった。
盗賊の真似も、失敗した。
いまじゃ商人ギルドが規則を作っちまって、護衛なしじゃ西の森を通れないようにしちまったらしい。
オークも、クリスが集落ごと滅ぼしちまったって話だ……せっかく、高い金を出して魔物寄せの香を買ったっていうのによぉ!
「糞ッ、何もかもクリスの所為だ!! あいつさえいなけりゃ――…」
……いや、待てよ?
糞……そうか、糞か。
■ ◆ ■ ◆
「つ、つ、疲れたぁ……」
夜中。
王都自慢のスイートルームのベッドに倒れ込みながら、心の底からつぶやいた。
「うん……」
「確かに疲れましたわ……」
シャーロッテとノティアが、至極自然な様子で僕のベッドに倒れ込む。
お師匠様? お師匠様は女性陣の為に取ってある部屋に入っていったよ。
「……寝ちゃだめだからね……ちゃんと自分たちの部屋に戻るんだよ?」
「「はぁい」」
『お風呂事件』からこっち、このふたりの僕に対する距離感が異様なほどに近い。
……まぁいいや、とにかく僕らはようやっと、魔王様から解放されたんだから。
一週間もの間、魔王様に連れ回された。
『余が自ら、王都観光ツアーの案内人となろう!』という言葉の通り、変装した魔王様によって、王都中を案内された。
バフォメット様も含め、誰も魔王様を止められなかった。
魔王様は、お師匠様のことを奥さんでもある先王アリソン様だと勘違いしている点以外は割とまともなお方で、多少強引ながらも、僕らを楽しませるべく王都一周ツアーのガイドに徹してくださった。
僕ら平民相手に偉そうぶることもないし、なんというか無邪気で気さくなお兄さんという感じ。
僕とシャーロッテはすっかり魔王様に懐いてしまった……まぁ、僕らが魔族で、魔王様による【従魔】影響下にあるからなのかも知れないけれど。
実際、お師匠様とノティアは僕らほど魔王様に心酔していないようだったから。
で、最後の晩餐会が終わって、やっと解放されたってわけ。
「ノティア、明日の朝には向こうに戻りたいんだけど……お願いできる?」
「承知しましたわ」
■ ◆ ■ ◆
「【瞬間移動】!」
翌朝、『街』の自宅である屋敷内へと【瞬間移動】する。
3階の一室であるこの部屋は、通称『【瞬間移動】部屋』と言って、ノティアが【瞬間移動】で現れる為の、それ専用の部屋だ。
そうやって部屋を分けておかないと、いきなり使用人の前に僕らが現れて相手を驚かせてしまったり、最悪『接触事故』が起きるから、そういう措置を取っている。
「いや~、久しぶりの我が家!」
言いながら部屋のドアを開けると、
「町長様ぁ!! お待ちしておりました!!」
目の前に、ミッチェンさんがいた。
泣きそうな顔をしている――いや、泣いている。
「な、何があったんですか!?」
「じ、じ、じ、実は――…」
■ ◆ ■ ◆
「な、なんてこと……」
居間のソファに座りながら、僕は天井を仰ぐ。
――――――――疫病発生。
2日前から難民村で腹痛を訴える人が続出し、昨日からは難民以外からも体調不良者が出ているのだそうだ。
それで、原因は『西の森』に棲みつく魔物たちの瘴気だとか、戦争で無くなった西王国の兵士たちの怨念が難民を祟っているのだとか、そんな根も葉もないウワサで街中で持ちきりらしい。
「…………死者は?」
「幸い、いまのところはゼロです」
「良かった……お師匠様、お願いできますか!?」
「もちろんさね」
もともと旅装だったお師匠様が、マントを羽織り、とんがり帽子をかぶり、そしてマジックバッグから杖を取り出す。
凛々しくも頼もしい、自慢のお師匠様だ。