「【西風神ゼフュロスよ・春と生命の司よ】」
「【西風神ゼフュロスよ・春と生命の司よ】」
「【我を暖かな風で風で包み込み・その身を浮かび上がらせよ】」
「【我を暖かな風で風で包み込み・その身を浮かび上がらせよ】」
「「――【浮遊】ッ!」」
西の森からほどよく離れた草原で。
ふたりして詠唱したにも関わらず、ノティアの体だけが、ふわりと浮き上がる。
ノティアはローブの裾を押さえながらふわふわ浮き上がり、空を泳ぐようなしぐさで、僕の周りを漂う。
「【飛翔】の前提となる魔法で、初級風魔法なんですけれどねぇ……」
「分かってたことさね。やはりこいつには、【無制限収納空間】以外の才能は無い。ゼロだ」
「分かってたならなんでやらせたんですかぁ!」
女性陣からの心無い罵倒に抗議するも、
「うふふ、泣き顔クリス君可愛い」
うっとり顔で僕を見つめるノティアと、
「はんっ、大の男がめそめそと」
ため息を吐くお師匠様。
……まるで取り合ってもらえない。
「だが、お前さんには【無制限収納空間】がある。ほれ、いっちょ空を【収納】してみな」
「はぁ? 空を、【収納】!?」
「そうさねぇ……【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】、【視覚共有】」
いつものやつが始まったので、僕は目を閉じる。
すると、お師匠様の視界の先で、僕らの上空で数十メートル四方くらい? の空間が薄っすら白く輝いている。
「ほれ、【収納】してみな」
「は、はい……【無制限収納空間】!」
途端、僕らの体が引っ張られるようにして舞い上がり、空に放り出される!!
「「「うわぁぁあぁあああああぁぁああああ!?」」」
「悪いノティア、頼むさね!」
「なんでアリスさんまで驚いてますの! まったく――【飛翔】」
空高く放り上げられた僕とお師匠様を、ノティアが器用に拾い上げ、ゆっくりと地面に降ろしてくれる。
――あぁ、怖かった!!
「な、ななななんてことさせるんですかお師匠様!!」
「あははっ、悪い悪い! けど【収納空間】で空を飛べただろう? 空気を【収納】することで真空空間を作り出し、そこに集まる空気に、体を引っ張り上げてもらうんだよ。この前お前さんが海水を一気に【収納】したときに津波が出来たのと同じようなものさね」
「な、なるほど……ってぇ、いやいやいやこんなの使い物になりませんって! もし仮に使いこなせたとしても、周囲が大迷惑するでしょう!?」
飛翔『レース』というからには周りに競走相手がいるわけで、その人たちを巻き込んでしまう。
「ふむ……そう言えばそうさねぇ」
「そうさねぇじゃなくって!! もう大会には申し込んじゃったんですよ!?」
「安心おし」
お師匠様がニヤリと微笑む。
「奥の手がある」
…………嫌な予感しかしないのだけれど。
■ ◆ ■ ◆
平和のうちに、数日が過ぎた。
……いやまぁ、相変わらず『街』は治安が悪いし、西の森には魔物や盗賊が出てくるから僕、お師匠様、ノティアの3人で出撃なんかも度々したけれど。
正直僕はもう、僕単体でも盗賊やオーク、オーガ上位種なんかが相手でも軽々と首を狩れるようになった。思えば強くなったものだよ。
とは言えちょっと油断した途端、ゴブリンが飛ばしてきた弓に手足を射抜かれたりして、その度にベソをかきながらお師匠様に治癒してもらった。
僕は弱い。僕の強さはお師匠様とノティアのサポートがあったればこそだ。
慢心してはいけないのだ。
■ ◆ ■ ◆
「こ、これが王都……ッ!!」
「の、城門だけどね」
初めての王都に驚くシャーロッテに答える。
僕はまぁ、移築の為の家をもらい受けに、ノティアと一緒に何度も来ているから。
僕らがいまいるのは、王都の城門の外――入城待ちの行列の中だ。
メンバーは、お師匠様、ノティア、シャーロッテとそして僕。
使用人組はお留守番というかまぁ普通に屋敷の維持管理のお仕事だね。
行列がどんどんはけていき、やがて僕らの番になる。
「身分を証明するものを」
と衛兵さんに言われたので、ノティアがAランク冒険者のカードをかざして見せる。
「あ、あわわAランク冒険者様――というか『不得手知らず』様! どうぞどうぞお通りくださいませ!」
ノティアと一緒に何度も王都に来たけれど、毎回こんな感じ。
ノティアの冒険者証があれば、同行者もノーチェックで通してもらえる。
■ ◆ ■ ◆
「わぁ! ここが王都一のスイートルーム!? ってぇ……」
高級宿の部屋に入ったシャーロッテが、急に落ち着く。
「クリスの家と大差ないわね」
「うん……確かに」
……ミッチェンさん、いったいぜんたいどれほど高級な屋敷を僕にくれたんだ?
まぁいいや。
明日はいよいよ、レース大会当日。
「【西風神ゼフュロスよ・春と生命の司よ】」
「【我を暖かな風で風で包み込み・その身を浮かび上がらせよ】」
「【我を暖かな風で風で包み込み・その身を浮かび上がらせよ】」
「「――【浮遊】ッ!」」
西の森からほどよく離れた草原で。
ふたりして詠唱したにも関わらず、ノティアの体だけが、ふわりと浮き上がる。
ノティアはローブの裾を押さえながらふわふわ浮き上がり、空を泳ぐようなしぐさで、僕の周りを漂う。
「【飛翔】の前提となる魔法で、初級風魔法なんですけれどねぇ……」
「分かってたことさね。やはりこいつには、【無制限収納空間】以外の才能は無い。ゼロだ」
「分かってたならなんでやらせたんですかぁ!」
女性陣からの心無い罵倒に抗議するも、
「うふふ、泣き顔クリス君可愛い」
うっとり顔で僕を見つめるノティアと、
「はんっ、大の男がめそめそと」
ため息を吐くお師匠様。
……まるで取り合ってもらえない。
「だが、お前さんには【無制限収納空間】がある。ほれ、いっちょ空を【収納】してみな」
「はぁ? 空を、【収納】!?」
「そうさねぇ……【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】、【視覚共有】」
いつものやつが始まったので、僕は目を閉じる。
すると、お師匠様の視界の先で、僕らの上空で数十メートル四方くらい? の空間が薄っすら白く輝いている。
「ほれ、【収納】してみな」
「は、はい……【無制限収納空間】!」
途端、僕らの体が引っ張られるようにして舞い上がり、空に放り出される!!
「「「うわぁぁあぁあああああぁぁああああ!?」」」
「悪いノティア、頼むさね!」
「なんでアリスさんまで驚いてますの! まったく――【飛翔】」
空高く放り上げられた僕とお師匠様を、ノティアが器用に拾い上げ、ゆっくりと地面に降ろしてくれる。
――あぁ、怖かった!!
「な、ななななんてことさせるんですかお師匠様!!」
「あははっ、悪い悪い! けど【収納空間】で空を飛べただろう? 空気を【収納】することで真空空間を作り出し、そこに集まる空気に、体を引っ張り上げてもらうんだよ。この前お前さんが海水を一気に【収納】したときに津波が出来たのと同じようなものさね」
「な、なるほど……ってぇ、いやいやいやこんなの使い物になりませんって! もし仮に使いこなせたとしても、周囲が大迷惑するでしょう!?」
飛翔『レース』というからには周りに競走相手がいるわけで、その人たちを巻き込んでしまう。
「ふむ……そう言えばそうさねぇ」
「そうさねぇじゃなくって!! もう大会には申し込んじゃったんですよ!?」
「安心おし」
お師匠様がニヤリと微笑む。
「奥の手がある」
…………嫌な予感しかしないのだけれど。
■ ◆ ■ ◆
平和のうちに、数日が過ぎた。
……いやまぁ、相変わらず『街』は治安が悪いし、西の森には魔物や盗賊が出てくるから僕、お師匠様、ノティアの3人で出撃なんかも度々したけれど。
正直僕はもう、僕単体でも盗賊やオーク、オーガ上位種なんかが相手でも軽々と首を狩れるようになった。思えば強くなったものだよ。
とは言えちょっと油断した途端、ゴブリンが飛ばしてきた弓に手足を射抜かれたりして、その度にベソをかきながらお師匠様に治癒してもらった。
僕は弱い。僕の強さはお師匠様とノティアのサポートがあったればこそだ。
慢心してはいけないのだ。
■ ◆ ■ ◆
「こ、これが王都……ッ!!」
「の、城門だけどね」
初めての王都に驚くシャーロッテに答える。
僕はまぁ、移築の為の家をもらい受けに、ノティアと一緒に何度も来ているから。
僕らがいまいるのは、王都の城門の外――入城待ちの行列の中だ。
メンバーは、お師匠様、ノティア、シャーロッテとそして僕。
使用人組はお留守番というかまぁ普通に屋敷の維持管理のお仕事だね。
行列がどんどんはけていき、やがて僕らの番になる。
「身分を証明するものを」
と衛兵さんに言われたので、ノティアがAランク冒険者のカードをかざして見せる。
「あ、あわわAランク冒険者様――というか『不得手知らず』様! どうぞどうぞお通りくださいませ!」
ノティアと一緒に何度も王都に来たけれど、毎回こんな感じ。
ノティアの冒険者証があれば、同行者もノーチェックで通してもらえる。
■ ◆ ■ ◆
「わぁ! ここが王都一のスイートルーム!? ってぇ……」
高級宿の部屋に入ったシャーロッテが、急に落ち着く。
「クリスの家と大差ないわね」
「うん……確かに」
……ミッチェンさん、いったいぜんたいどれほど高級な屋敷を僕にくれたんだ?
まぁいいや。
明日はいよいよ、レース大会当日。