浴室の方へと去っていくクリス。
クリスのそっけない態度に、肩をすくめるノティアさん。
そして、お風呂上がりのクリスの為に、タオルやら着替えやらお風呂上がりの果実水やらの準備に取り掛かる使用人の4人……みんな、少しでもクリスに気に入られようと、目が血走っている。
「いいのかい、小娘?」
ふと、アリスさんが話しかけてきた……執筆しながら。
いつも思うけど、ホント器用だなぁこの人。
「ぼさぼさしてると、あのバカ弟子をノティアに盗られちまうよ?」
アリスさんが顔を上げ、ニヤリと微笑む。
その笑みの妖艶さに、同性ながらドキリとする。
……本当、ズルい。その美貌を少しでも分けてもらいたいくらいだ。
「だからって、いったいどうすれば――」
「そりゃお前さん、体を張るしかないさね」
「体を……?」
「クリスの背中でも流して来たらどうだい?」
「「なぁ……っ!?」」
あたしとノティアさんの叫びが被る。
「さ、させませんわよそんなこと!?」
「だいたいノティア、お前さんは何が不満なのさね。クリスが儂の望みを【収納】してくれた暁には、儂はあいつからは手を引く。そうしたらふたり仲良くあいつに娶られればいいだけの話だろう?」
「「め、めとっ……」」
「聞く限りじゃ、シャーロッテの方がクリスとは付き合いが長いし、クリスにはシャーロッテへの恩もあるようだ。あいつの初めてはシャーロッテに譲ってやるくらいの度量は見せてやったらどうだい? どうせお前さんの方が家格は上。正妻はノティアになるだろう?」
……それは、そう。
もし仮にクリスがあたしとノティアさんの両方をめ、娶ったとして、孤児出身の私と、公国のお姫様たるノティアさんとでは、ノティアさんの方が圧倒的に家格が上……というか、家名も持たない私に家格も何もない。
「うぅぅ……でも、愛が半分になってしまうのは嫌ですわ」
ノティアさんがなんともロマンティストなことを言う。
「だいたいあなた、何様ですの!? どうして人の恋路に邪魔をしますの!」
「儂はあいつに、自信を付けさせたいのさ」
「……自信?」
「魔法ってのはイメージ力が大事だ。いくら魔力や魔法力、魔法のスキルレベルが伴っていても、イメージできなきゃ魔法は発現しない。だろう?」
「それはまぁ、そうですわね」
「クリスには、儂が望むものを【収納】できると思えるほどの自信を付けさせたいんだ。一角兎はいけた。ゴブリンも、オークも、人間も【収納】できたさね。だが、風竜の【収納】には未だ成功していない。魔力は養殖でだいぶ増やせたし、【無制限収納空間】のスキルレベルも今や6。あとは自信が伴えば、竜種だろうがベヒーモスだろうがグリフォンだろうがオルトロスだろうが、きっと【収納】できるさね。そして、伝説の魔獣くらい楽々と【収納】できるくらいになってもらわないと、儂の望みは達成できない」
「だから、あなたはいったいぜんたい何をクリス君に【収納】させるつもりなんですの……?」
「それは内緒だ」
「またこれですわ。で、クリス君の自信の話と、あなたがシャーロッテちゃんを応援する話の、どこがつながりますの?」
「だってお前さん、クリスより強いだろう?」
「強い……う~ん、正直クリス君と全力で戦ったら、首を狩り取られそうな気もしなくはありませんが……」
「だがお前さんなら【魔法防護結界】で抵抗しつつ、攻撃魔法でクリスを圧倒することができるはずだ」
「うーん……まぁ、そうでしょうね」
「それに少なくともクリスのヤツは、お前さんのことを圧倒的強者――天下のAランク冒険者、『不得手知らず』ノティア・ド・ラ・パーヤネンとして見ている。つまりあいつがお前さんをモノにしても、お前さんに依存するばかりで自信にはつながらない――と、儂は思う」
「うーんうーん……確かにそうかも知れませんわね。そもそもわたくしがクリス君に求めているのも、わたくしに家父長権を明け渡してくれるような一歩引いた男性像ですし」
「けど、シャーロッテは違う」
アリスさんがあたしを射貫くように見る。
「昔はどうだったか知らないが、いまのあいつは、シャーロッテのことを自分よりも弱者だと――守るべき相手だと見ている」
……それは確かに、そうだ。
さっき、一緒に夜道を歩いてたときも、あいつはさりげなく周りを見張ってたし、いつでも【無制限収納空間】が使えるように魔力を活性化させていた。
つまりあいつは、あたしを守ろうと考えていた――あの弱虫クリスが!
「だから、クリスの一人目としてふさわしいのはシャーロッテだと思う」
「ぐぬぬ……」
うなるノティアさんに向かってアリスさんがいやらしく微笑みかけ、
「だいたいお前さん、男はあいつが初めてってわけでもないんだろう?」
「は、初めてですわよ!!」
「「…………は?」」
……え、本当に?
「お前さん……そ、そんな大胆な服装しておいて?」
「あんな露骨にクリスを誘っておいて?」
「だ、だいたいわたくし、これでも公国の姫なんですのよ!? 貴族家の娘の身持ちが堅いのなんて当然でしょう!?」
「「……た、確かに」」
アリスさんがやおら立ち上がり、ノティアさんの背後に立って、ノティアさんを羽交い絞めにする。
「ほらシャーロッテ、いまのうちに行け! クリスを襲って、既成事実を作っちまいな!」
「あっ、ちょっ、アリスさん!? あなたがその気ならわたくしだって抵抗しますわよ!?」
アリスさんとノティアさんがもみくちゃになっているのを尻目に、あたしは浴室へと駆けていく。
クリスのそっけない態度に、肩をすくめるノティアさん。
そして、お風呂上がりのクリスの為に、タオルやら着替えやらお風呂上がりの果実水やらの準備に取り掛かる使用人の4人……みんな、少しでもクリスに気に入られようと、目が血走っている。
「いいのかい、小娘?」
ふと、アリスさんが話しかけてきた……執筆しながら。
いつも思うけど、ホント器用だなぁこの人。
「ぼさぼさしてると、あのバカ弟子をノティアに盗られちまうよ?」
アリスさんが顔を上げ、ニヤリと微笑む。
その笑みの妖艶さに、同性ながらドキリとする。
……本当、ズルい。その美貌を少しでも分けてもらいたいくらいだ。
「だからって、いったいどうすれば――」
「そりゃお前さん、体を張るしかないさね」
「体を……?」
「クリスの背中でも流して来たらどうだい?」
「「なぁ……っ!?」」
あたしとノティアさんの叫びが被る。
「さ、させませんわよそんなこと!?」
「だいたいノティア、お前さんは何が不満なのさね。クリスが儂の望みを【収納】してくれた暁には、儂はあいつからは手を引く。そうしたらふたり仲良くあいつに娶られればいいだけの話だろう?」
「「め、めとっ……」」
「聞く限りじゃ、シャーロッテの方がクリスとは付き合いが長いし、クリスにはシャーロッテへの恩もあるようだ。あいつの初めてはシャーロッテに譲ってやるくらいの度量は見せてやったらどうだい? どうせお前さんの方が家格は上。正妻はノティアになるだろう?」
……それは、そう。
もし仮にクリスがあたしとノティアさんの両方をめ、娶ったとして、孤児出身の私と、公国のお姫様たるノティアさんとでは、ノティアさんの方が圧倒的に家格が上……というか、家名も持たない私に家格も何もない。
「うぅぅ……でも、愛が半分になってしまうのは嫌ですわ」
ノティアさんがなんともロマンティストなことを言う。
「だいたいあなた、何様ですの!? どうして人の恋路に邪魔をしますの!」
「儂はあいつに、自信を付けさせたいのさ」
「……自信?」
「魔法ってのはイメージ力が大事だ。いくら魔力や魔法力、魔法のスキルレベルが伴っていても、イメージできなきゃ魔法は発現しない。だろう?」
「それはまぁ、そうですわね」
「クリスには、儂が望むものを【収納】できると思えるほどの自信を付けさせたいんだ。一角兎はいけた。ゴブリンも、オークも、人間も【収納】できたさね。だが、風竜の【収納】には未だ成功していない。魔力は養殖でだいぶ増やせたし、【無制限収納空間】のスキルレベルも今や6。あとは自信が伴えば、竜種だろうがベヒーモスだろうがグリフォンだろうがオルトロスだろうが、きっと【収納】できるさね。そして、伝説の魔獣くらい楽々と【収納】できるくらいになってもらわないと、儂の望みは達成できない」
「だから、あなたはいったいぜんたい何をクリス君に【収納】させるつもりなんですの……?」
「それは内緒だ」
「またこれですわ。で、クリス君の自信の話と、あなたがシャーロッテちゃんを応援する話の、どこがつながりますの?」
「だってお前さん、クリスより強いだろう?」
「強い……う~ん、正直クリス君と全力で戦ったら、首を狩り取られそうな気もしなくはありませんが……」
「だがお前さんなら【魔法防護結界】で抵抗しつつ、攻撃魔法でクリスを圧倒することができるはずだ」
「うーん……まぁ、そうでしょうね」
「それに少なくともクリスのヤツは、お前さんのことを圧倒的強者――天下のAランク冒険者、『不得手知らず』ノティア・ド・ラ・パーヤネンとして見ている。つまりあいつがお前さんをモノにしても、お前さんに依存するばかりで自信にはつながらない――と、儂は思う」
「うーんうーん……確かにそうかも知れませんわね。そもそもわたくしがクリス君に求めているのも、わたくしに家父長権を明け渡してくれるような一歩引いた男性像ですし」
「けど、シャーロッテは違う」
アリスさんがあたしを射貫くように見る。
「昔はどうだったか知らないが、いまのあいつは、シャーロッテのことを自分よりも弱者だと――守るべき相手だと見ている」
……それは確かに、そうだ。
さっき、一緒に夜道を歩いてたときも、あいつはさりげなく周りを見張ってたし、いつでも【無制限収納空間】が使えるように魔力を活性化させていた。
つまりあいつは、あたしを守ろうと考えていた――あの弱虫クリスが!
「だから、クリスの一人目としてふさわしいのはシャーロッテだと思う」
「ぐぬぬ……」
うなるノティアさんに向かってアリスさんがいやらしく微笑みかけ、
「だいたいお前さん、男はあいつが初めてってわけでもないんだろう?」
「は、初めてですわよ!!」
「「…………は?」」
……え、本当に?
「お前さん……そ、そんな大胆な服装しておいて?」
「あんな露骨にクリスを誘っておいて?」
「だ、だいたいわたくし、これでも公国の姫なんですのよ!? 貴族家の娘の身持ちが堅いのなんて当然でしょう!?」
「「……た、確かに」」
アリスさんがやおら立ち上がり、ノティアさんの背後に立って、ノティアさんを羽交い絞めにする。
「ほらシャーロッテ、いまのうちに行け! クリスを襲って、既成事実を作っちまいな!」
「あっ、ちょっ、アリスさん!? あなたがその気ならわたくしだって抵抗しますわよ!?」
アリスさんとノティアさんがもみくちゃになっているのを尻目に、あたしは浴室へと駆けていく。