「ご覧下さい。こちら、塩でございます」
そうして再び、領主邸へ。
「は? どこで手に入れたのだ?」
領主様が寄って来て、壺の中をのぞき込む。
「な、何という白さだ……」
「海でございます」
「海?」
「はい。ここから南の海で海水を汲み、精製しました」
「……どういうことだ? まあいい。おいっ」
領主様が隣に控えている執事さんの方を見ると、執事さんが壺に手をかざして、
「【鑑定】! ――間違いございません。最上級の塩でございます」
「ふむ……まぁ、信じてやるとしよう」
領主様が僕を睨みつけてくる。
「だが、こんな壺ひとつでどうしろと言うのだ? 西王国から購入していた塩の量は――」
「ご安心を。【無制限収納空間】!」
どどん、と追加の壺を出す。
僕の背後――長い長い『謁見の間』の廊下を埋め尽くす、何百何千という数の壺を!!
「「な、ななな……」」
目を白黒させている領主様に一礼し、僕は領主邸を辞した。
■ ◆ ■ ◆
「「こんばんは~」」
夕方、猫々亭を早上がりしたシャーロッテと一緒に、僕は孤児院を訪れた。
「あらあらまぁまぁクリスにシャーロッテも! どうしたんだい、急に?」
院長先生が笑顔で出迎えてくれる。
同時に子供達も出てきて、年少組が僕やシャーロッテにまとわりつく。
あっ、このガキ、シャーロッテの胸に触るんじゃない!
「実は大量の海のお魚が手に入りまして」
「「「「「お魚ぁッ!?」」」」」
僕とシャーロッテにまとわりついていた子供たちが狂喜する。
海から遠いこの街では、海魚は珍しい。
そして海の魚は、川魚に比べると泥臭くなくて美味しいから、ご馳走なんだよね。
■ ◆ ■ ◆
孤児院の庭に焼き網を広げ、海鮮パーティーとあいなった。
「「「「「うんめぇぇええええ!?」」」」」
子供たちが、ピリリと辛い猫々亭風味付けの焼き魚にかぶりついている。
「お前たち、骨に気をつけるんだよ!」
院長先生の注意に、
「「「「「は~い!」」」」」
元気な返事。
……をしつつも、飲み込むような速度でがっついていく子供たち。
いやぁ、調子いいなぁまったく。
「お前には感謝の言葉もないよ、クリス」
そんな子供たちの喜ぶ姿を見ながら、院長先生が涙ぐむ。
「いえ……このくらいは当然の恩返しと言うか、院長先生がいなければ僕はとっくの昔に死んでいましたから。【収納空間】」
銀貨入りの革袋を院長先生に渡す。
「お前、またこんなに! 本当に大丈夫なのかい!?」
「はい」
「うふふ、クリスったら本当に大金持ちになったんですよ?」
なぜか、シャーロッテが自慢げに微笑むのだった。
■ ◆ ■ ◆
「いい夜ね」
『街』の屋敷へとシャーロッテとふたりで歩く。
「うん」
見上げれば、満天の星空。
思えば、こうしてシャーロッテとふたりっきりになったのなんていつぶりだろう?
ここのところはずっと、お師匠様かノティアのどちらかか、もしくは両方が隣にいたからなぁ。
「クリス、変わったよね」
「そう?」
「うん。たくましくなった」
「いやぁ……【無制限収納空間】以外はからっきしだけどね」
「でも、いろんな人相手に、ちゃんと目を見てお話しできるようになったじゃない」
「えー……」
僕が思っているより次元の低い話のようだった。
「本当、びっくり。昔はいっつもあたしの背中に隠れてたのに」
「いやぁ、あはは……」
「ね、あたしをお嫁さんにするって約束、覚えてる?」
「!!」
思わず立ち止まり、シャーロッテの両肩をつかむ。
シャーロッテが上目遣いに見つめてくる。
「もちろん!!」
「クリス……」
「シャーロッテ……」
「【瞬間移動】は要りませんこと?」
いきなり、耳元でノティアの声がした。
「「ぅひゃあッ!?」」
ふたりして飛び退く。
「まったく帰りが遅いと思ったら、油断もスキもありませんわ」
「のののノティア、迎えに来てくれたんだねありがとう!!」
「わたくしの求婚は無視するくせに、別の女とはいい雰囲気になるんですのね」
「な、なんのことかな……?」
なんて言いつくろうも、言い訳は無意味と思い直す。
声をかけてきたタイミング的に、間違いなく僕らがいい感じになって止めに入る為に現れたってことで間違いなさそうだからだ。
ノティア・ド・ラ・パーヤネン……恐ろしい女。
シャーロッテの方を見ると、
「……ヒッ」
シャーロッテが、ものすごい形相でノティアを睨んでた。
……怖いよ。
■ ◆ ■ ◆
もうご飯を済ませてしまったので、今日は『魔力養殖』は無しということになった。
居間に入るとホカホカしたお師匠様がいて、
「冷めないうちにお前さんも入っちまいな」
「あ、はい」
言ってそのまま浴室へ向かう。
■ ◆ ■ ◆
「ふぃ~……」
という僕の声が広い浴室で反響する。
この屋敷の湯船は大きい。
どのくらい大きいかというと、泳げるくらいには大きい。
そして、そんな大きな湯船の湯はいつも、ノティアか使用人の誰かが火魔法で温めてくれる。
僕とお師匠様は火魔法が使えないし、シャーロッテは日中の猫々亭での仕事で大抵魔力を使い切るから。
それにしても、今日は孤児院のみんなが喜んでくれて本当、よかったな……。
なんて考えていると、
……ガラガラガラ
と、浴室のドアが開いた。
使用人少年団のアシル君かダエル君のどちらかだろうか? と思って振り向くと、
「く、くくくクリス! せ、背中を流してあげるわ!!」
「ってぅぇぇえええええッ!? シャーロッテ!?」
タオル一枚のシャーロッテが立っていた!!
そうして再び、領主邸へ。
「は? どこで手に入れたのだ?」
領主様が寄って来て、壺の中をのぞき込む。
「な、何という白さだ……」
「海でございます」
「海?」
「はい。ここから南の海で海水を汲み、精製しました」
「……どういうことだ? まあいい。おいっ」
領主様が隣に控えている執事さんの方を見ると、執事さんが壺に手をかざして、
「【鑑定】! ――間違いございません。最上級の塩でございます」
「ふむ……まぁ、信じてやるとしよう」
領主様が僕を睨みつけてくる。
「だが、こんな壺ひとつでどうしろと言うのだ? 西王国から購入していた塩の量は――」
「ご安心を。【無制限収納空間】!」
どどん、と追加の壺を出す。
僕の背後――長い長い『謁見の間』の廊下を埋め尽くす、何百何千という数の壺を!!
「「な、ななな……」」
目を白黒させている領主様に一礼し、僕は領主邸を辞した。
■ ◆ ■ ◆
「「こんばんは~」」
夕方、猫々亭を早上がりしたシャーロッテと一緒に、僕は孤児院を訪れた。
「あらあらまぁまぁクリスにシャーロッテも! どうしたんだい、急に?」
院長先生が笑顔で出迎えてくれる。
同時に子供達も出てきて、年少組が僕やシャーロッテにまとわりつく。
あっ、このガキ、シャーロッテの胸に触るんじゃない!
「実は大量の海のお魚が手に入りまして」
「「「「「お魚ぁッ!?」」」」」
僕とシャーロッテにまとわりついていた子供たちが狂喜する。
海から遠いこの街では、海魚は珍しい。
そして海の魚は、川魚に比べると泥臭くなくて美味しいから、ご馳走なんだよね。
■ ◆ ■ ◆
孤児院の庭に焼き網を広げ、海鮮パーティーとあいなった。
「「「「「うんめぇぇええええ!?」」」」」
子供たちが、ピリリと辛い猫々亭風味付けの焼き魚にかぶりついている。
「お前たち、骨に気をつけるんだよ!」
院長先生の注意に、
「「「「「は~い!」」」」」
元気な返事。
……をしつつも、飲み込むような速度でがっついていく子供たち。
いやぁ、調子いいなぁまったく。
「お前には感謝の言葉もないよ、クリス」
そんな子供たちの喜ぶ姿を見ながら、院長先生が涙ぐむ。
「いえ……このくらいは当然の恩返しと言うか、院長先生がいなければ僕はとっくの昔に死んでいましたから。【収納空間】」
銀貨入りの革袋を院長先生に渡す。
「お前、またこんなに! 本当に大丈夫なのかい!?」
「はい」
「うふふ、クリスったら本当に大金持ちになったんですよ?」
なぜか、シャーロッテが自慢げに微笑むのだった。
■ ◆ ■ ◆
「いい夜ね」
『街』の屋敷へとシャーロッテとふたりで歩く。
「うん」
見上げれば、満天の星空。
思えば、こうしてシャーロッテとふたりっきりになったのなんていつぶりだろう?
ここのところはずっと、お師匠様かノティアのどちらかか、もしくは両方が隣にいたからなぁ。
「クリス、変わったよね」
「そう?」
「うん。たくましくなった」
「いやぁ……【無制限収納空間】以外はからっきしだけどね」
「でも、いろんな人相手に、ちゃんと目を見てお話しできるようになったじゃない」
「えー……」
僕が思っているより次元の低い話のようだった。
「本当、びっくり。昔はいっつもあたしの背中に隠れてたのに」
「いやぁ、あはは……」
「ね、あたしをお嫁さんにするって約束、覚えてる?」
「!!」
思わず立ち止まり、シャーロッテの両肩をつかむ。
シャーロッテが上目遣いに見つめてくる。
「もちろん!!」
「クリス……」
「シャーロッテ……」
「【瞬間移動】は要りませんこと?」
いきなり、耳元でノティアの声がした。
「「ぅひゃあッ!?」」
ふたりして飛び退く。
「まったく帰りが遅いと思ったら、油断もスキもありませんわ」
「のののノティア、迎えに来てくれたんだねありがとう!!」
「わたくしの求婚は無視するくせに、別の女とはいい雰囲気になるんですのね」
「な、なんのことかな……?」
なんて言いつくろうも、言い訳は無意味と思い直す。
声をかけてきたタイミング的に、間違いなく僕らがいい感じになって止めに入る為に現れたってことで間違いなさそうだからだ。
ノティア・ド・ラ・パーヤネン……恐ろしい女。
シャーロッテの方を見ると、
「……ヒッ」
シャーロッテが、ものすごい形相でノティアを睨んでた。
……怖いよ。
■ ◆ ■ ◆
もうご飯を済ませてしまったので、今日は『魔力養殖』は無しということになった。
居間に入るとホカホカしたお師匠様がいて、
「冷めないうちにお前さんも入っちまいな」
「あ、はい」
言ってそのまま浴室へ向かう。
■ ◆ ■ ◆
「ふぃ~……」
という僕の声が広い浴室で反響する。
この屋敷の湯船は大きい。
どのくらい大きいかというと、泳げるくらいには大きい。
そして、そんな大きな湯船の湯はいつも、ノティアか使用人の誰かが火魔法で温めてくれる。
僕とお師匠様は火魔法が使えないし、シャーロッテは日中の猫々亭での仕事で大抵魔力を使い切るから。
それにしても、今日は孤児院のみんなが喜んでくれて本当、よかったな……。
なんて考えていると、
……ガラガラガラ
と、浴室のドアが開いた。
使用人少年団のアシル君かダエル君のどちらかだろうか? と思って振り向くと、
「く、くくくクリス! せ、背中を流してあげるわ!!」
「ってぅぇぇえええええッ!? シャーロッテ!?」
タオル一枚のシャーロッテが立っていた!!