「塩が止められてしまったのだ!」
僕らが謁見の間に入るや否や、領主様がわめき散らした。
「…………塩?」
「西王国からの、塩の供給が急に止まったのだ! 事前通告も何もなく、西の塩商人が来なくなったのだ! 西からの塩がなければ、この領の需要を賄いきれん! 過去十年来に渡ってこんなことはなかった……間違いなく貴様の所為だ! 貴様が勝手に道を敷き、街を作り、川を引いたことを、西王国が警戒しておるのだ!」
なぜ、僕が『街』を作ったら西王国が塩の供給を止めるんだ?
というか領主様も西王国と交易してたのか。
だったらなおのこと、僕やミッチェンさんが交易所を運営していることの何が問題だというのだろう。
「しかも、街を城壁で囲ったという話ではないか!」
「それは、魔物の襲来を防ぐためで――」
「口答えするな! そもそもあの場所は、でーえむぜっと、であるからしてるぶぼぁ……?」
……あぁ、またいつものパターンだ。
「分かりました……塩があればいいんでしょう? ご用意しますよ」
■ ◆ ■ ◆
「ってことでお願いノティア! 僕を海まで連れてって!!」
屋敷に戻り、ノティアを拝み倒す。
「はぁ~……領主相手に大見得切っておいて、人頼みなんですの?」
「お願いだよ、お願い!」
「調子いいんですから……」
「できれば人がいない海の方がいいな」
「いまから行きますの?」
「ちょっとだけ待ってて! 着替えてくる!」
■ ◆ ■ ◆
というわけで、ノティアに【瞬間移動】で連れて行ってもらったのは、『街』の南に広がる広大な砂丘の果ての海。
ここいらは砂しかなくて人が住めず、人里がない。
だから周囲を見回しても、釣り人ひとり見られない――好都合だ。
僕は海岸線に立って、海に向かって、
「【無制限収納空間】ッ!!」
目の前に広がっていた海水がごっそりと消えて、消えた部分に水が流れ込んできて津波になって押し寄せてきた!!
「うわ、うわわわ!!」
「【飛翔】!!」
ノティアが僕と、一緒に来たお師匠様の腕をつかんで飛び上がってくれる。
「あ、ありがとう……!」
「お前さん、いくらなんでも迂闊過ぎやしないかい……?」
「本当に」
「ご、ごめんなさい……」
お師匠様とノティアに咎められ、平謝りの僕。
眼下では津波が引いていき、ノティアが僕らを降ろしてくれる。
「【目録】」
ウィンドウを表示させ、【収納】日時の降順で並べ替えると、一番上には『海の水』の文字。
これを長押しすると、詳細として『海水』と『その他』に別れた。
『その他』をタッチすると、目の前に大量の魚やら海藻やら何やらがボトボトと落ちてきた。
「あははっ、大漁じゃあないか」
「ですね。孤児院に寄付することにします――【無制限収納空間】!」
魚を【収納】する。
海藻と砂やら石やらなにやらはまぁ、その場に放っておこう。
次に『海水』を長押しすると、『水』と『その他』に別れた。
「…………その他? 塩じゃないの? 【収納空間】」
試しに手の上に少量出すと、白いさらさらとした物が出てきた。
なめてみると、
「にっが!?」
苦い!! え、何これ塩じゃないの!?
「お、お前さん……本気でやってるのかい、それ?」
お師匠様が引きつり笑いをしている。
「海水から水を消せば塩ぉ? 塩化ナトリウムを理解しろとは言わないが、にがりのことを知らないなんて、学が無さすぎやしないかい……?」
「にがりって何ですか? っていうか僕は孤児院出身なんですから、学なんて無くて当然ですよ」
学校になんて行ったこともない。
そんな時間があったら内職のお手伝いだ。
まぁ、院長先生から簡単な読み書き計算くらいなら教えてもらったけれど。
「冒険者なんてそんなものじゃないんですか?」
「わたくしはにがりのこと知ってますわよ」
「いや、ノティアは冒険者である前にお姫様でしょ……?」
「それもそうでしたわね。なにぶん冒険者暮らしが長いものですから」
エルフ族だものね。
ノティアっていったい何歳なんだろう?
「いいからそいつをさらに細分化してみな」
「は、はい! 【収納空間】」
手の平の白い粉は【収納】し、【目録】内で『その他』と統合させる。
『その他』を長押ししてみるのだけれど、それ以上は細分表示されなかった。
「ははぁん、使用者に学がないと、こうなるのか」
ウィンドウをのぞき込みながら、お師匠様が言う。
しかし、ひどい言われようだな……。
「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】――【念話】。ほら、もう一度やってみな」
「は、はい!」
『その他』を長押しすると、
「わ、わわわ……?」
『塩化ナトリウム』、『塩化マグネシウム』、『硫酸マグネシウム』、『硫酸カルシウム』、『塩化カリウム』、『その他』……何やら呪文めいた単語が出てきた!
「その、一番最初に出てる『塩化ナトリウム』ってのが塩さね。にがりが入ってないとそっけない味になっちまうそうだが……まぁこの世界じゃあ純粋な塩化ナトリウムの方が、綺麗だなんだと喜ばれるだろう」
お師匠様がちょっとよく分からないことを喋るが、いつものことなので気にしない。
僕は『塩化ナトリウム』だけを少量手の平に取り出す。
「ぺろっ。おぉぉぉ……お師匠様、塩です!!」
「だからそう言ってるさね。そいつを壺に入れて領主に渡せば、一件落着さね」
僕らが謁見の間に入るや否や、領主様がわめき散らした。
「…………塩?」
「西王国からの、塩の供給が急に止まったのだ! 事前通告も何もなく、西の塩商人が来なくなったのだ! 西からの塩がなければ、この領の需要を賄いきれん! 過去十年来に渡ってこんなことはなかった……間違いなく貴様の所為だ! 貴様が勝手に道を敷き、街を作り、川を引いたことを、西王国が警戒しておるのだ!」
なぜ、僕が『街』を作ったら西王国が塩の供給を止めるんだ?
というか領主様も西王国と交易してたのか。
だったらなおのこと、僕やミッチェンさんが交易所を運営していることの何が問題だというのだろう。
「しかも、街を城壁で囲ったという話ではないか!」
「それは、魔物の襲来を防ぐためで――」
「口答えするな! そもそもあの場所は、でーえむぜっと、であるからしてるぶぼぁ……?」
……あぁ、またいつものパターンだ。
「分かりました……塩があればいいんでしょう? ご用意しますよ」
■ ◆ ■ ◆
「ってことでお願いノティア! 僕を海まで連れてって!!」
屋敷に戻り、ノティアを拝み倒す。
「はぁ~……領主相手に大見得切っておいて、人頼みなんですの?」
「お願いだよ、お願い!」
「調子いいんですから……」
「できれば人がいない海の方がいいな」
「いまから行きますの?」
「ちょっとだけ待ってて! 着替えてくる!」
■ ◆ ■ ◆
というわけで、ノティアに【瞬間移動】で連れて行ってもらったのは、『街』の南に広がる広大な砂丘の果ての海。
ここいらは砂しかなくて人が住めず、人里がない。
だから周囲を見回しても、釣り人ひとり見られない――好都合だ。
僕は海岸線に立って、海に向かって、
「【無制限収納空間】ッ!!」
目の前に広がっていた海水がごっそりと消えて、消えた部分に水が流れ込んできて津波になって押し寄せてきた!!
「うわ、うわわわ!!」
「【飛翔】!!」
ノティアが僕と、一緒に来たお師匠様の腕をつかんで飛び上がってくれる。
「あ、ありがとう……!」
「お前さん、いくらなんでも迂闊過ぎやしないかい……?」
「本当に」
「ご、ごめんなさい……」
お師匠様とノティアに咎められ、平謝りの僕。
眼下では津波が引いていき、ノティアが僕らを降ろしてくれる。
「【目録】」
ウィンドウを表示させ、【収納】日時の降順で並べ替えると、一番上には『海の水』の文字。
これを長押しすると、詳細として『海水』と『その他』に別れた。
『その他』をタッチすると、目の前に大量の魚やら海藻やら何やらがボトボトと落ちてきた。
「あははっ、大漁じゃあないか」
「ですね。孤児院に寄付することにします――【無制限収納空間】!」
魚を【収納】する。
海藻と砂やら石やらなにやらはまぁ、その場に放っておこう。
次に『海水』を長押しすると、『水』と『その他』に別れた。
「…………その他? 塩じゃないの? 【収納空間】」
試しに手の上に少量出すと、白いさらさらとした物が出てきた。
なめてみると、
「にっが!?」
苦い!! え、何これ塩じゃないの!?
「お、お前さん……本気でやってるのかい、それ?」
お師匠様が引きつり笑いをしている。
「海水から水を消せば塩ぉ? 塩化ナトリウムを理解しろとは言わないが、にがりのことを知らないなんて、学が無さすぎやしないかい……?」
「にがりって何ですか? っていうか僕は孤児院出身なんですから、学なんて無くて当然ですよ」
学校になんて行ったこともない。
そんな時間があったら内職のお手伝いだ。
まぁ、院長先生から簡単な読み書き計算くらいなら教えてもらったけれど。
「冒険者なんてそんなものじゃないんですか?」
「わたくしはにがりのこと知ってますわよ」
「いや、ノティアは冒険者である前にお姫様でしょ……?」
「それもそうでしたわね。なにぶん冒険者暮らしが長いものですから」
エルフ族だものね。
ノティアっていったい何歳なんだろう?
「いいからそいつをさらに細分化してみな」
「は、はい! 【収納空間】」
手の平の白い粉は【収納】し、【目録】内で『その他』と統合させる。
『その他』を長押ししてみるのだけれど、それ以上は細分表示されなかった。
「ははぁん、使用者に学がないと、こうなるのか」
ウィンドウをのぞき込みながら、お師匠様が言う。
しかし、ひどい言われようだな……。
「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】――【念話】。ほら、もう一度やってみな」
「は、はい!」
『その他』を長押しすると、
「わ、わわわ……?」
『塩化ナトリウム』、『塩化マグネシウム』、『硫酸マグネシウム』、『硫酸カルシウム』、『塩化カリウム』、『その他』……何やら呪文めいた単語が出てきた!
「その、一番最初に出てる『塩化ナトリウム』ってのが塩さね。にがりが入ってないとそっけない味になっちまうそうだが……まぁこの世界じゃあ純粋な塩化ナトリウムの方が、綺麗だなんだと喜ばれるだろう」
お師匠様がちょっとよく分からないことを喋るが、いつものことなので気にしない。
僕は『塩化ナトリウム』だけを少量手の平に取り出す。
「ぺろっ。おぉぉぉ……お師匠様、塩です!!」
「だからそう言ってるさね。そいつを壺に入れて領主に渡せば、一件落着さね」