……き、緊張する。
城塞都市の、『外東地区』の片隅。
僕やシャーロッテ……と、オーギュスが育った孤児院の前で、僕はまごまごしている。
ここに来るのは1年以上前、15歳で成人して、ここを去ってから始めてになる。
こういうとき、お師匠様が隣にいれば、僕の尻を叩いてくれるんだけど……今日は僕ひとりなんだよね。
「あー、クリス兄ちゃんだ!」
まごついてると、庭で遊んでいた子供たちに見つかった。
「ホントだ! クリスにぃ!」
「だれぇ~?」
「わぁ、久しぶり!」
子供たちがむらがってくる。
僕の知らない顔もちらほらいるね。
「どうしたの? 騒がしいわねぇ」
ふと、懐かしい声とともに礼拝堂の中から老齢のシスター――院長先生が出てきた。
目が合って、
「あらまぁ、クリス!?」
「そ、その……ご無沙汰してます」
■ ◆ ■ ◆
食堂でお茶を出してもらった。
「先生、僕のこと覚えて下さってたんですね」
ここには常時数十人の子供たちがいて、出入りも多い。
「それはもう! あなたほどその、できの悪……いえ、どんくさ……ごほん! 長くここに居座っ……ううん、居てくれた子もいないもの」
「あ、あははは……」
――――言葉もない。
15歳で成人するまで仕事が決まらず、もらい手も現れず、ここに居続けたのはたぶん僕だけだろう。
「【収納空間】――あのこれ、差し入れです」
机の上に何十個もの包みを出現させる。
包装紙のひとつを開くと、
「まぁ! 綺麗な色のお肉! こんなにたくさん、いいのかい?」
言いながらも院長先生は、ご自分のマジックバッグへ次々と【収納】していく。
こういうたくましさがなきゃ、孤児院の先生なんて務まらない。
「それにしても、本当に綺麗な色! 何のお肉だい?」
「風竜の肉です。美味しいですよ」
「…………え? ど、ど、ドラゴンんんん~~~~ッ!?」
「なになにぃ~?」
「どらごん!? どらごん!?」
「がおー」
食堂の外で様子をうかがっていた子供たちがはやし立てる。
「く、クリス、あんたドラゴン肉だなんて、そんな高級品もらえないよ!」
「大丈夫ですよ、それは狩猟したヤツですから」
「ど、ドラゴンを狩猟ぅううう!?」
「あ、僕がじゃないですよ!? 知り合いのAランク冒険者がです! 僕は手も足も出ませんでした」
そう、このお肉は先日ノティアが首を切り飛ばした風竜のもの。
彼女はその風竜を、魔石と素材になるツノ、キバ、ウロコ、血、いくつかの内臓以外は全部、僕にくれたんだ。
すごいよね。
肉は、いくらかは猫々亭で料理してもらって食べたけど、竜1匹分なんてそうそう食べきれるもんじゃない。
なので、【無制限収納空間】を駆使して肉を切り分け、包装して持ってきたというわけ。
「それにしたってあなた、ドラゴンと戦って生き延びたなんて――…本当、強くなったのねぇ!」
院長先生が、こんな僕の為に涙ぐんでくれる。
僕はこれまで自分のことで精いっぱいで、一度も孤児院を顧みたことがなかった。
シャーロッテは猫々亭の食材の残りを寄付しにちょくちょく来てるって言ってたし、僕がここにいたときも、たくさんの孤児出身者がここに支援をしてくれてた。
本当、もっと早くに顔を出すべきだったよ……。
「あ、あの、よければこれもどうぞ……【収納空間】」
罪悪感を誤魔化すべく、大銀貨を数十枚取り出して院長先生に渡す。
「な、ななな……こ、こんなにもらっちまっていいのかい!? あんた、生活は大丈夫なの!?」
「あはは……その、いろいろありまして。お金の方は全然大丈夫です」
何しろあのでっかいお屋敷に住んでいるだけで、毎日膨大な金額が手に入るんだ。
まぁ僕だってその分、道を敷いたり川を引いたり大量の家屋を移築したりと、随分働いたけれど。
「それでその、実は今日ここに来たのには目的がありまして」
「何だい!? 何でも言っておくれ!」
銀貨の枚数を必死に数えながら、院長先生。
「実は――――」
■ ◆ ■ ◆
「西の森に街を作ったぁ!? 巨大な豪邸ぃ!? 使用人を採用したいぃ!?」
「はい。日給10ルキで……」
「職人並みのお給金じゃあないかい!!」
■ ◆ ■ ◆
採用予定人数は若干名。
それに対し、孤児院にいた子供たちほぼ全員である数十人が立候補した。
そうして、誰がこの職にふさわしいかを決めるための血で血を洗う争いが始まった。
雑巾はやがけレース、ドラゴン肉お料理対決、洋服のガンコなシミ汚れを一番最初に落とすのは誰でしょうか大会、お裁縫一本勝負などなど。
あまたの勝負が夕方まで繰り広げられ、勝ち上がった男の子2名、女の子3名を雇う運びとあいなった。
城塞都市の、『外東地区』の片隅。
僕やシャーロッテ……と、オーギュスが育った孤児院の前で、僕はまごまごしている。
ここに来るのは1年以上前、15歳で成人して、ここを去ってから始めてになる。
こういうとき、お師匠様が隣にいれば、僕の尻を叩いてくれるんだけど……今日は僕ひとりなんだよね。
「あー、クリス兄ちゃんだ!」
まごついてると、庭で遊んでいた子供たちに見つかった。
「ホントだ! クリスにぃ!」
「だれぇ~?」
「わぁ、久しぶり!」
子供たちがむらがってくる。
僕の知らない顔もちらほらいるね。
「どうしたの? 騒がしいわねぇ」
ふと、懐かしい声とともに礼拝堂の中から老齢のシスター――院長先生が出てきた。
目が合って、
「あらまぁ、クリス!?」
「そ、その……ご無沙汰してます」
■ ◆ ■ ◆
食堂でお茶を出してもらった。
「先生、僕のこと覚えて下さってたんですね」
ここには常時数十人の子供たちがいて、出入りも多い。
「それはもう! あなたほどその、できの悪……いえ、どんくさ……ごほん! 長くここに居座っ……ううん、居てくれた子もいないもの」
「あ、あははは……」
――――言葉もない。
15歳で成人するまで仕事が決まらず、もらい手も現れず、ここに居続けたのはたぶん僕だけだろう。
「【収納空間】――あのこれ、差し入れです」
机の上に何十個もの包みを出現させる。
包装紙のひとつを開くと、
「まぁ! 綺麗な色のお肉! こんなにたくさん、いいのかい?」
言いながらも院長先生は、ご自分のマジックバッグへ次々と【収納】していく。
こういうたくましさがなきゃ、孤児院の先生なんて務まらない。
「それにしても、本当に綺麗な色! 何のお肉だい?」
「風竜の肉です。美味しいですよ」
「…………え? ど、ど、ドラゴンんんん~~~~ッ!?」
「なになにぃ~?」
「どらごん!? どらごん!?」
「がおー」
食堂の外で様子をうかがっていた子供たちがはやし立てる。
「く、クリス、あんたドラゴン肉だなんて、そんな高級品もらえないよ!」
「大丈夫ですよ、それは狩猟したヤツですから」
「ど、ドラゴンを狩猟ぅううう!?」
「あ、僕がじゃないですよ!? 知り合いのAランク冒険者がです! 僕は手も足も出ませんでした」
そう、このお肉は先日ノティアが首を切り飛ばした風竜のもの。
彼女はその風竜を、魔石と素材になるツノ、キバ、ウロコ、血、いくつかの内臓以外は全部、僕にくれたんだ。
すごいよね。
肉は、いくらかは猫々亭で料理してもらって食べたけど、竜1匹分なんてそうそう食べきれるもんじゃない。
なので、【無制限収納空間】を駆使して肉を切り分け、包装して持ってきたというわけ。
「それにしたってあなた、ドラゴンと戦って生き延びたなんて――…本当、強くなったのねぇ!」
院長先生が、こんな僕の為に涙ぐんでくれる。
僕はこれまで自分のことで精いっぱいで、一度も孤児院を顧みたことがなかった。
シャーロッテは猫々亭の食材の残りを寄付しにちょくちょく来てるって言ってたし、僕がここにいたときも、たくさんの孤児出身者がここに支援をしてくれてた。
本当、もっと早くに顔を出すべきだったよ……。
「あ、あの、よければこれもどうぞ……【収納空間】」
罪悪感を誤魔化すべく、大銀貨を数十枚取り出して院長先生に渡す。
「な、ななな……こ、こんなにもらっちまっていいのかい!? あんた、生活は大丈夫なの!?」
「あはは……その、いろいろありまして。お金の方は全然大丈夫です」
何しろあのでっかいお屋敷に住んでいるだけで、毎日膨大な金額が手に入るんだ。
まぁ僕だってその分、道を敷いたり川を引いたり大量の家屋を移築したりと、随分働いたけれど。
「それでその、実は今日ここに来たのには目的がありまして」
「何だい!? 何でも言っておくれ!」
銀貨の枚数を必死に数えながら、院長先生。
「実は――――」
■ ◆ ■ ◆
「西の森に街を作ったぁ!? 巨大な豪邸ぃ!? 使用人を採用したいぃ!?」
「はい。日給10ルキで……」
「職人並みのお給金じゃあないかい!!」
■ ◆ ■ ◆
採用予定人数は若干名。
それに対し、孤児院にいた子供たちほぼ全員である数十人が立候補した。
そうして、誰がこの職にふさわしいかを決めるための血で血を洗う争いが始まった。
雑巾はやがけレース、ドラゴン肉お料理対決、洋服のガンコなシミ汚れを一番最初に落とすのは誰でしょうか大会、お裁縫一本勝負などなど。
あまたの勝負が夕方まで繰り広げられ、勝ち上がった男の子2名、女の子3名を雇う運びとあいなった。