その日は猫々亭でご馳走になった。
「え、辛っ!? けど何ですのこのクセになる美味しさは……!?」
ここの『マー』と『ラー』は病みつきになっちゃうんだよね。
ノティアの味覚にも刺さっている模様。
そしてお師匠様はと言えば、相変わらず何も食べずに僕らをニコニコと眺めているだけ。
水は、店長とシャーロッテの水魔法でまかなったのだそうだ。
今日はまだ本営業は始めていないから、僕らの食事分くらいなら魔法で何とかなるらしい。
「シャーロッテ、大丈夫だから。明日にはここに川の水を引いてくるから」
という、僕の精いっぱいの宣言は、
「クリスゥ! お前さん、めちゃくちゃいい奴じゃねぇか!」
シャーロッテからではなく店長さんからの賞賛を浴びた。
……暑苦しいスキンシップとともに。
「ったくオーギュスの奴、ウソばっかこきやがって。おめぇほどいい野郎が他にいるかってんだ!」
「あ、あははは……あの、一応その、僕、幼馴染のシャーロッテが働いてるからこそ、いろいろさせて頂いているってことを、お忘れにならないで頂ければ、と」
「はっはっはっ、そうだったな! シャーロッテはウチに必要不可欠な看板娘さ、心配ねぇよ!」
■ ◆ ■ ◆
その夜は、まさしく地獄だった。
いつものお師匠様と僕の『魔力養殖』の場にノティアが転がり込んできて、仲間に入れろと要求してきて。
三人でベッドで輪になって手を取り合い、調子に乗ったお師匠様がありえない速度で魔力を循環させ始めたんだよね。
僕はもちろん吐いた。
せっかく食べた猫々亭の料理がもったいなくなるくらい盛大に吐いた。
そして、ノティアも吐いた。
Aランク冒険者で、風竜の首を千切り飛ばすことができるノティアをして、
「あ、あり得ませんわ……アリスさん、あなたいったいどれほどの魔力を持っていますの!? というかそれほどの力を持ちながら、なぜいまのいままで無名でしたの!?」
とのことで、てっきりプライドを刺激されて怒ったり落ち込んだりするものかと思ったけれど、
「久しぶりに魔力が上がりましたわ♪」
とウキウキだった。
切り替えの早さは冒険者として長生きする為に必要な資質。
さすがはAランク冒険者だな、と思った。
■ ◆ ■ ◆
というわけで、翌朝、北の山の中、新しく作った川との接続部にて。
「【物理防護結界】――で、フタをしてっと。【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】! ――【視覚共有】。さぁクリス、仕上げといこうじゃないか」
「はい!」
お師匠様の視界で白く輝く地面――昨日掘った人工河川と、目の前に流れる勢いのよい川の接続部となる土を、
「【無制限収納空間】!!」
川と川が繋がったけれど、お師匠様の【物理防護結界】がフタをしているから、水は流れ込んでこない。
続いて、ノティアに【念力《サイコキネシス》】で土を固めてもらい、セメントを流し込み、石畳を敷き詰め、ノティアに焼き入れしてもらう。
「さぁ、繋げるよ!」
「はい!」
うっすら輝く結界が消えて、
――――ざっぱぁぁああ~~~~ッ!!
僕たちが作った川に、水が流れ込んでくる!
「あははっ、すごいすごい!!」
あれだけ無能無能と言われ続けた【無制限収納空間】で城塞都市ごとドブさらいをし、数百匹分の治癒一角兎の角を回収し、無数の薪を作り、水を作り、巨大な街道を作り――――……そうして今度は、川を作ってしまった!
もう、誰にも無能だなんて言わせない!
後ろ指をさされる人生とはおさらばだ!
「ね、クリス君! 水を追いかけましょうよ!」
ノティアが僕の手を握りながら、すごいことを言い出した。
「えええっ!? こんなに流れの速い川、追いつけっこないよ! 先頭なんてもう見えなくなっちゃったし」
「ふふっ、そんなことはありませんわ――【飛翔】!!」
途端、ノティアと、ノティアに手を握られている僕とお師匠様の体が空に舞い上がった!!
「うわ、うわわわわッ!?」
「大丈夫、落ちませんわ。けれど、この手はしっかりと握っていてくださいまし」
「う、うん!!」
両手でもって力の限りノティアの手を握る。
「ほら、下を見てください」
言われるがままに見る。
眼下では、僕らが作った川の中を、水の先端がぐんぐんと駆け抜けていく姿が見えた。
「わぁ、すごい!!」
「ふふっ、じゃあ追いかけましょう!」
真っ青な空。
気持ちのいい風。
キラキラ輝く川の流れ。
夢かと思うくらい楽しい時間。
けれど、そんな時間もすぐに終わった。
『市場』が見えてきて、猫々亭の横を通り抜け、川の終端であるため池が見えてきたんだ。
そして、ため池の周りには人、人、人!!
「「「「「わぁぁああああああああッ!!」」」」」
水がため池に飛び込むや否や、野次馬の皆さんから割れんばかりの歓声が沸き上がった。
彼らは着地した僕たちに向かって、
「「「「「川神様ぁ~~~~ッ!! ありがたやありがたや……」」」」」
また、神様が増えた。
「え、辛っ!? けど何ですのこのクセになる美味しさは……!?」
ここの『マー』と『ラー』は病みつきになっちゃうんだよね。
ノティアの味覚にも刺さっている模様。
そしてお師匠様はと言えば、相変わらず何も食べずに僕らをニコニコと眺めているだけ。
水は、店長とシャーロッテの水魔法でまかなったのだそうだ。
今日はまだ本営業は始めていないから、僕らの食事分くらいなら魔法で何とかなるらしい。
「シャーロッテ、大丈夫だから。明日にはここに川の水を引いてくるから」
という、僕の精いっぱいの宣言は、
「クリスゥ! お前さん、めちゃくちゃいい奴じゃねぇか!」
シャーロッテからではなく店長さんからの賞賛を浴びた。
……暑苦しいスキンシップとともに。
「ったくオーギュスの奴、ウソばっかこきやがって。おめぇほどいい野郎が他にいるかってんだ!」
「あ、あははは……あの、一応その、僕、幼馴染のシャーロッテが働いてるからこそ、いろいろさせて頂いているってことを、お忘れにならないで頂ければ、と」
「はっはっはっ、そうだったな! シャーロッテはウチに必要不可欠な看板娘さ、心配ねぇよ!」
■ ◆ ■ ◆
その夜は、まさしく地獄だった。
いつものお師匠様と僕の『魔力養殖』の場にノティアが転がり込んできて、仲間に入れろと要求してきて。
三人でベッドで輪になって手を取り合い、調子に乗ったお師匠様がありえない速度で魔力を循環させ始めたんだよね。
僕はもちろん吐いた。
せっかく食べた猫々亭の料理がもったいなくなるくらい盛大に吐いた。
そして、ノティアも吐いた。
Aランク冒険者で、風竜の首を千切り飛ばすことができるノティアをして、
「あ、あり得ませんわ……アリスさん、あなたいったいどれほどの魔力を持っていますの!? というかそれほどの力を持ちながら、なぜいまのいままで無名でしたの!?」
とのことで、てっきりプライドを刺激されて怒ったり落ち込んだりするものかと思ったけれど、
「久しぶりに魔力が上がりましたわ♪」
とウキウキだった。
切り替えの早さは冒険者として長生きする為に必要な資質。
さすがはAランク冒険者だな、と思った。
■ ◆ ■ ◆
というわけで、翌朝、北の山の中、新しく作った川との接続部にて。
「【物理防護結界】――で、フタをしてっと。【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】! ――【視覚共有】。さぁクリス、仕上げといこうじゃないか」
「はい!」
お師匠様の視界で白く輝く地面――昨日掘った人工河川と、目の前に流れる勢いのよい川の接続部となる土を、
「【無制限収納空間】!!」
川と川が繋がったけれど、お師匠様の【物理防護結界】がフタをしているから、水は流れ込んでこない。
続いて、ノティアに【念力《サイコキネシス》】で土を固めてもらい、セメントを流し込み、石畳を敷き詰め、ノティアに焼き入れしてもらう。
「さぁ、繋げるよ!」
「はい!」
うっすら輝く結界が消えて、
――――ざっぱぁぁああ~~~~ッ!!
僕たちが作った川に、水が流れ込んでくる!
「あははっ、すごいすごい!!」
あれだけ無能無能と言われ続けた【無制限収納空間】で城塞都市ごとドブさらいをし、数百匹分の治癒一角兎の角を回収し、無数の薪を作り、水を作り、巨大な街道を作り――――……そうして今度は、川を作ってしまった!
もう、誰にも無能だなんて言わせない!
後ろ指をさされる人生とはおさらばだ!
「ね、クリス君! 水を追いかけましょうよ!」
ノティアが僕の手を握りながら、すごいことを言い出した。
「えええっ!? こんなに流れの速い川、追いつけっこないよ! 先頭なんてもう見えなくなっちゃったし」
「ふふっ、そんなことはありませんわ――【飛翔】!!」
途端、ノティアと、ノティアに手を握られている僕とお師匠様の体が空に舞い上がった!!
「うわ、うわわわわッ!?」
「大丈夫、落ちませんわ。けれど、この手はしっかりと握っていてくださいまし」
「う、うん!!」
両手でもって力の限りノティアの手を握る。
「ほら、下を見てください」
言われるがままに見る。
眼下では、僕らが作った川の中を、水の先端がぐんぐんと駆け抜けていく姿が見えた。
「わぁ、すごい!!」
「ふふっ、じゃあ追いかけましょう!」
真っ青な空。
気持ちのいい風。
キラキラ輝く川の流れ。
夢かと思うくらい楽しい時間。
けれど、そんな時間もすぐに終わった。
『市場』が見えてきて、猫々亭の横を通り抜け、川の終端であるため池が見えてきたんだ。
そして、ため池の周りには人、人、人!!
「「「「「わぁぁああああああああッ!!」」」」」
水がため池に飛び込むや否や、野次馬の皆さんから割れんばかりの歓声が沸き上がった。
彼らは着地した僕たちに向かって、
「「「「「川神様ぁ~~~~ッ!! ありがたやありがたや……」」」」」
また、神様が増えた。