「じゃあ、1匹出すよ」
「「「はい!」」」
「【収納空間】」
前方数メートル先に、ツノを失ったホーンラビットが出現する。
ホーンラビットは耳をそば立て、僕、エンゾ、ドナ、クロエのいない方向へと脱兎のごとく走り始める――ちなみにお師匠様が離れたところでのんびり休憩中だ。
「ドナ、牽制! クロエは道をふさげ!」
「おうっ!」
「【豊穣の女神イシュタルよ・御身の力を以て・我が前に立ちふさがる敵を・大地に縛りつけ給え】――」
ドナの放った矢がホーンラビットの進行方向に突き立ち、驚いたホーンラビットが方向転換しようとしたその先が、
「【岩壁】ッ!!」
クロエが生み出した岩の壁で取り囲まれる。
袋小路に入り込んでしまったホーリーラビットを、
「ぉぉぉおおおおッ!!」
エンゾが吶喊し、その片手剣でもって叩き伏せた。
「ふぅ……と、まぁこんな感じっす」
「すっごい! すごいすごいすごい! カッコイイ!!」
僕は思わず、大興奮で賛辞を贈る。
実のところ僕は、彼らのパーティーにいたころは後方での防御陣地作りや野営準備ばかりに終始してて、彼らの戦いをまともに見たことがなかったんだよね。
「いやぁ……えへへ、クリスさんの魔法に比べりゃ大したことないっすよ」
「でもカッコよかったよ! あ、もちろんその兎はエンゾたちの物にしていいからね!」
「へへ、ありがとうっす」
言いつつ素早くマジックバッグに仕舞うエンゾ。
肉は血抜きの早さが何より重要。だから、時間停止機能付きマジックバッグに手早く仕舞うのは冒険者の鉄則なわけだ。
「じゃあ次はクリスさんがやってみますか?」
「う、うん! お願いします」
言って【収納空間】からボロの短剣を引き抜く。
「あー……クリスさん」
エンゾが、何やら言い難そうにしている。
「その……ですね。これ言ったら、『何でさっさと言ってくれなかったんだ』って言われそうで嫌なんすけど」
「言わないよ。何?」
「その……クリスさんって、魔物が目の前まで来たら、目ぇつぶったり体固まったりするでしょう?」
「――ッ!!」
「だから、クリスさんには多少取り回しが大変でも、ナイフよりはリーチのある槍の方が向いてると思うんすよね」
言ってエンゾが、マジックバッグから長めの槍を取り出す。
「どうぞ」
「あ、ありがとう……」
…………よ、良く見てる。
こと接近戦においては、僕なんかよりエンゾの方がよっぽど上だ。
侮ることはできない。
■ ◆ ■ ◆
「――行きましたよ! ほら、槍を突き出して!」
「うわぁあああっ!!」
エンゾの指示に従って、無我夢中で槍を突き出す。
果たして槍の切っ先はホーンラビットの額にぶつかるも、ホーンラビットは勢いを衰えさせずにこちらに突進してくる!
「失礼するっす!」
目の前に、エンゾがするりと滑り込んでくる。
彼はその左腕につけた円盾でホーンラビットの頭突きを見事にかち上げ、宙に浮いたホーンラビットを片手剣でもって叩き伏す。
「止めを!」
「う、うん!!」
僕は、地面に転がりもがくホーンラビットの喉元を槍で突き刺す。
「はぁっ、はぁっ……エンゾ、ありがとう」
「いえ……で、どうです? レベルは上がりましたか?」
「【ステータス・オープン】! うん――うん! ありがとう! 本当に、エンゾたちのおかげだよ!」
「いやぁ、あはは……」
■ ◆ ■ ◆
そんなふうにして、300匹以上の兎を狩って狩って狩りまくった。
気がつけば僕はレベル17という、Fランク冒険者として誰に見せても恥ずかしくないステータスになっていた。
……ほんの数日前、お師匠様に出逢う前はレベル5だったのが、本当に信じられない。
エンゾたちは遠慮して僕にたくさん止めをゆずってくれたけれど、肉のほとんどはエンゾたちに送った。
そりゃ、以前は色々――本当に色々と――あったけど、今日に絞って言えば、彼らのおかげで僕は一人前のレベルに至れたのだから。
■ ◆ ■ ◆
夜、いつもの高級宿の自室にて。
「おえぇぇ……」
今日も今日とてお師匠様による『魔力養殖』の特訓を受けつつ、やや余裕が出てきた僕は問う。
「そう言えばお師匠様、ホーンラビット狩りにまったく参加なさいませんでしたけど、何か理由でもあるんですか?」
「んんん? あぁ、そうさねぇ……」
ベッドの上。僕の目の前で坐禅を組み、ものすごい勢いで僕の体内の魔力を循環させながら、お師匠様が言う。
「ここだけの話、儂ゃ攻撃魔法を封じられているんだよ。唯一使える攻撃魔法と言えば、相手の舌を回らなくさせて詠唱を阻害する魔法くらいかねぇ」
「え……え? 封じられて……?」
【万物解析】、【大治癒】、【視覚共有】……確かにお師匠様がいままで使ってきた魔法は、どれこもれも補助魔法か回復魔法ばかり。
「封じられてるって、誰に……?」
「んふふ」
お師匠様は微笑むばかり。……詮索は、すまい。
「でも、そう言えば【収納空間】も使ったことなかったですよね?」
「そりゃそうさ。【収納空間】は攻撃魔法だろう?」
「んんん? 【収納空間】は【収納】魔法ですが」
「言いつつ、お前さんももう、分かってるんだろう?」
お師匠様がニヤリと微笑む。
「今日、お前さんは300体以上のヒール・ホーンラビットのツノを【収納】した。次にあれと同じことをやったときに、もう数十センチ下を狙えば――」
……そう、兎たちの首を狩ることができる、のだろう。
「これぞ【無制限収納空間】使いにのみ許されし奥義――」
お師匠様が、悪魔的な笑みでもって告げる。
「【首狩り収納空間】――我がマスターの、得意技さね」
「「「はい!」」」
「【収納空間】」
前方数メートル先に、ツノを失ったホーンラビットが出現する。
ホーンラビットは耳をそば立て、僕、エンゾ、ドナ、クロエのいない方向へと脱兎のごとく走り始める――ちなみにお師匠様が離れたところでのんびり休憩中だ。
「ドナ、牽制! クロエは道をふさげ!」
「おうっ!」
「【豊穣の女神イシュタルよ・御身の力を以て・我が前に立ちふさがる敵を・大地に縛りつけ給え】――」
ドナの放った矢がホーンラビットの進行方向に突き立ち、驚いたホーンラビットが方向転換しようとしたその先が、
「【岩壁】ッ!!」
クロエが生み出した岩の壁で取り囲まれる。
袋小路に入り込んでしまったホーリーラビットを、
「ぉぉぉおおおおッ!!」
エンゾが吶喊し、その片手剣でもって叩き伏せた。
「ふぅ……と、まぁこんな感じっす」
「すっごい! すごいすごいすごい! カッコイイ!!」
僕は思わず、大興奮で賛辞を贈る。
実のところ僕は、彼らのパーティーにいたころは後方での防御陣地作りや野営準備ばかりに終始してて、彼らの戦いをまともに見たことがなかったんだよね。
「いやぁ……えへへ、クリスさんの魔法に比べりゃ大したことないっすよ」
「でもカッコよかったよ! あ、もちろんその兎はエンゾたちの物にしていいからね!」
「へへ、ありがとうっす」
言いつつ素早くマジックバッグに仕舞うエンゾ。
肉は血抜きの早さが何より重要。だから、時間停止機能付きマジックバッグに手早く仕舞うのは冒険者の鉄則なわけだ。
「じゃあ次はクリスさんがやってみますか?」
「う、うん! お願いします」
言って【収納空間】からボロの短剣を引き抜く。
「あー……クリスさん」
エンゾが、何やら言い難そうにしている。
「その……ですね。これ言ったら、『何でさっさと言ってくれなかったんだ』って言われそうで嫌なんすけど」
「言わないよ。何?」
「その……クリスさんって、魔物が目の前まで来たら、目ぇつぶったり体固まったりするでしょう?」
「――ッ!!」
「だから、クリスさんには多少取り回しが大変でも、ナイフよりはリーチのある槍の方が向いてると思うんすよね」
言ってエンゾが、マジックバッグから長めの槍を取り出す。
「どうぞ」
「あ、ありがとう……」
…………よ、良く見てる。
こと接近戦においては、僕なんかよりエンゾの方がよっぽど上だ。
侮ることはできない。
■ ◆ ■ ◆
「――行きましたよ! ほら、槍を突き出して!」
「うわぁあああっ!!」
エンゾの指示に従って、無我夢中で槍を突き出す。
果たして槍の切っ先はホーンラビットの額にぶつかるも、ホーンラビットは勢いを衰えさせずにこちらに突進してくる!
「失礼するっす!」
目の前に、エンゾがするりと滑り込んでくる。
彼はその左腕につけた円盾でホーンラビットの頭突きを見事にかち上げ、宙に浮いたホーンラビットを片手剣でもって叩き伏す。
「止めを!」
「う、うん!!」
僕は、地面に転がりもがくホーンラビットの喉元を槍で突き刺す。
「はぁっ、はぁっ……エンゾ、ありがとう」
「いえ……で、どうです? レベルは上がりましたか?」
「【ステータス・オープン】! うん――うん! ありがとう! 本当に、エンゾたちのおかげだよ!」
「いやぁ、あはは……」
■ ◆ ■ ◆
そんなふうにして、300匹以上の兎を狩って狩って狩りまくった。
気がつけば僕はレベル17という、Fランク冒険者として誰に見せても恥ずかしくないステータスになっていた。
……ほんの数日前、お師匠様に出逢う前はレベル5だったのが、本当に信じられない。
エンゾたちは遠慮して僕にたくさん止めをゆずってくれたけれど、肉のほとんどはエンゾたちに送った。
そりゃ、以前は色々――本当に色々と――あったけど、今日に絞って言えば、彼らのおかげで僕は一人前のレベルに至れたのだから。
■ ◆ ■ ◆
夜、いつもの高級宿の自室にて。
「おえぇぇ……」
今日も今日とてお師匠様による『魔力養殖』の特訓を受けつつ、やや余裕が出てきた僕は問う。
「そう言えばお師匠様、ホーンラビット狩りにまったく参加なさいませんでしたけど、何か理由でもあるんですか?」
「んんん? あぁ、そうさねぇ……」
ベッドの上。僕の目の前で坐禅を組み、ものすごい勢いで僕の体内の魔力を循環させながら、お師匠様が言う。
「ここだけの話、儂ゃ攻撃魔法を封じられているんだよ。唯一使える攻撃魔法と言えば、相手の舌を回らなくさせて詠唱を阻害する魔法くらいかねぇ」
「え……え? 封じられて……?」
【万物解析】、【大治癒】、【視覚共有】……確かにお師匠様がいままで使ってきた魔法は、どれこもれも補助魔法か回復魔法ばかり。
「封じられてるって、誰に……?」
「んふふ」
お師匠様は微笑むばかり。……詮索は、すまい。
「でも、そう言えば【収納空間】も使ったことなかったですよね?」
「そりゃそうさ。【収納空間】は攻撃魔法だろう?」
「んんん? 【収納空間】は【収納】魔法ですが」
「言いつつ、お前さんももう、分かってるんだろう?」
お師匠様がニヤリと微笑む。
「今日、お前さんは300体以上のヒール・ホーンラビットのツノを【収納】した。次にあれと同じことをやったときに、もう数十センチ下を狙えば――」
……そう、兎たちの首を狩ることができる、のだろう。
「これぞ【無制限収納空間】使いにのみ許されし奥義――」
お師匠様が、悪魔的な笑みでもって告げる。
「【首狩り収納空間】――我がマスターの、得意技さね」