そうして再び、舞台は西の森へ。

「ルールは昨日とほぼ同じ。3時間後の16時までに、より多くの治癒(ヒール・)一角兎(ホーンラビット)のツノを採取した方が勝ちさね。負けた方は勝った方へツノを渡すのと、バカにしたことへの――」

 お師匠様と僕は同時にニヤリと笑い、

「「謝罪」」

「さね」「だね」

「なっ! 負け犬どもが偉そうに――」

「はい、よ~い始め!」

「吠え面かかせてやるからな!」

 森の中へと消えていくエンゾたちパーティーを見届けて。

「さてクリス、何をすればいいか分かってるね?」

「はい、お師匠様」

「では始めよう。【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析(アナライズ)】」

 真っ赤な魔法陣が空一面に広がり、1秒ほどで消える。
 お師匠様が僕のまぶたに触れ、

「【視覚共有(シンクロナイズド・アイ)】」

 果たして、お師匠様の視界経由で、森のあちこちで青白く浮かび上がる数百匹のヒール・ホーンラビットの、その頭部に生えるツノの姿を捉える。

「詠唱は?」

「『獲物』さね」

「了解。【万物解析(アナライズ)】によりて導き出されし『獲物』を【収納】せよ――【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】ッ!!」

 (いた)っ! 丹田に猛烈な痛みと、魔力がごっそり失われる感覚。
 だけど――

「はぁっ、はぁっ……【目録(カタログ)】」

 表示されたウィンドウで最新の【収納】物を確認すると、


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 ヒール・ホーンラビットのツノ × 349
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「あ、あははっ、やった、僕はやったぞ!!」

 万感の思いが、エンゾたちを見返してやったぞという喜びが胸の奥からあふれてくる。
 まだまだお師匠様()りきではあるけれど、一瞬にして何百本ものヒール・ホーンラビットのツノを手に入れられる僕を、もう誰にだって無能とは呼ばせない!

「あっ」

 急に足腰から力が抜け、お師匠様に支えられる。

「まだまだ、お楽しみはこれからさね。【魔力譲渡《マナ・トランスファー》】」

 恐らく限界近くまで消耗したであろう僕の魔力が、みるみるうちに回復していく感覚。

「いま、疲労を感じているだろう? ステータスを確認してみな」

「【ステータス・オープン】――あっ!?」

無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】のスキルレベルが3に上がってる!!

「よぉし、これで無生物以外――即ち、生きている相手を【収納】できるようになったさね」

「え、えぇぇ!? 生物の【収納】なんて、先王様が残した一級品のマジックバッグでだって無理なはずですけど!?」

「ところがどっこい、【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】の手にかかれば、たったのスキルレベル3で解禁されてしまうんだねぇ。マスターが言ってたから確かだよ」

「だから誰ですか、『マスター』って……」

「んふふ、内緒さね。さぁ、行くよ――」

 再びお師匠様の詠唱と、

「【万物解析(アナライズ)】――【視覚共有(シンクロナイズド・アイ)】。さぁ、やりな!」

 お師匠様経由の視界に移る349体のヒール・ホーンラビットを――

「【万物解析(アナライズ)】によりて導き出されし『獲物』を【収納】せよ――【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】ッ!!」


   ■ ◆ ■ ◆


「んんん……――――っは!?」

 飛び起きようとして、目の前に張り出した何かに頭をぶつけた。

「ったく……破廉恥(はれんち)な弟子さね」

 その、お師匠様の一言で理解した。
 僕はまた、昨日と同じようにお師匠様に膝枕されていて、お師匠様のバストに頭突きをかましてしまったわけだ。

「ご、ごごごごめんなさい!!」

 急いで起き上がり、お師匠様から距離を取る。
 ここはさっきと同じ森の入り口だ。

「あっ、ヒール・ホーンラビットは――【目録(カタログ)】!」

「大丈夫さね。ちゃんと生きたまま【収納】できているはずだよ」


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 生きたヒール・ホーンラビット × 349
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「お、おぉぉぉ……おおおおッ!!」

「おめでとう。これでお前さんは、【収納(アイテム)空間(・ボックス)】にのみ関して言えば、(せい)級魔法使いだ」

「あぁ、あぁぁ……お、お師匠ざば、本当に、ほ”ん”と”う”に”、あ”り”が”と”う”ご”ざ”い”ま”す”ぅ”~~~~ッ!!」

「き、汚いよ! その鼻水をさっさと【収納】しな!」

無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】のスキルレベルは、さらに3へと上がっていた。