「疑ってすまなかった!!」
ギルドマスターの部屋で、ギルドマスターが頭を下げてきた。
「い、いえ……信じて頂けたのなら、僕はそれで……」
「欲のない男だねぇ。だが、追加で掃除した分の代金はもらうぞ?」
「ああ、もちろんだ」
力強くうなずくギルドマスター。
「詫びと言っちゃ何だが、もういい時間だから昼飯を奢らせてくれ。いろいろと、話さなきゃならないこともあるしな」
「だろうねぇ」
何だろう……?
お師匠様とギルドマスターが、ふたりしてこっちを見てる。
■ ◆ ■ ◆
「クリス、お前はできるだけ早いうちにCランクになれ」
「もがっ!?」
ギルドマスターがいきなりとんでもないことを言ってきたので、白パンを頬張ったまま変な声を上げてしまった。
「んぐっ……いやいやいや、僕、まだFランクですよ!? ひとりじゃ一角兎だって倒せないし、ましてや盗賊なんて……」
「ほう? よく勉強してるじゃないか。そうだ――Eランクに上がるにはホーンラビットを始めとするFランク以上の魔物の討伐実績が必要だ。
そして、Dランクに上がる為にはゴブリンを始めとするEランクの魔物を討伐する必要がある。
んで、Cに上がる為には護衛や盗賊討伐依頼で盗賊・犯罪者の討伐または捕縛を1件以上成功させなきゃならねぇ」
そう。そしてその『Cランク』というのが、実質的な『一人前の冒険者』って扱いになる。
オークやオーガみたいな強敵や盗賊を討伐できる、そういった敵から依頼人を護衛することができる実力の持ち主っていうこと。
それ以上のランクの冒険者となると、その人数は極端に少なくなる。
Bランクはまさしく一流という証で、この街にも指折り数えられるくらいしかいなかったはず。
Aランクはもう超一流と言うか英雄レベルの扱い。
で、その上にSランクってのがあるんだけど……いま、この国にSランク冒険者はいない。伝承では、先王様がSランクだったらしい。
「でも、なんで急にそんなことを……?」
「お前さん、自分の価値が分かってねぇのか? 街のドブを一気に【収納】するような遠隔【収納】持ちなんて、きっと国中をひっくり返したってお前以外にゃ見つからねぇぜ」
「で、でも、これはお師匠様の【万物解析】によるもので――」
「それは、確かにそうだ。だが逆に言えば、そこのお嬢さん以外にも【万物解析】持ちや、【万物解析】ほどでなくても【探査】に秀でた奴がいれば、似たようなことはできるだろう」
「――――……」
それは、確かに。
「だってのにいまのお前さんは最低ランクのF。周りの連中からカモにされちまうぞ?」
「ど、どうすれば……」
「だから、ランクを上げるんだ。いまのままだと、実力不足なD・Eランクの奴らに強引にパーティーに組み入れられる恐れがあるが、お前さんがCまで上がっちまえば、下位ランクからの勧誘は拒否する権限が生まれる。それに何より、高ランクのギルドカードは、それだけで変な虫どもには牽制になる」
「牽制……?」
「まずひとつに、Cランクの実力者相手に搾取してやろうと思い立つ奴が減る。そしてふたつ目として、Cランク以上の冒険者はギルドがしっかりと名簿登録して保護しているから、もし誰かから強請り集りを受けたときに、うちに助けを求めることができる」
逆にDランク以下は保護されていないのか……冒険者、分かっちゃいたけど、本当に危ない仕事だなぁ。
「特にお前さんのような、前衛向きじゃないが有用な奴ってのは定期的に生存確認も行ってる。ウチとしちゃ失いたくない人材だからな」
『失いたくない人材』――その言葉に、胸の奥がじわりと温かくなる。
本当に、冒険者登録してから、初めてそんな言葉をもらったんだ。
「とまぁ、クリス、お前に関しちゃ、まずはこんくらいだ。で、次は――」
ギルドマスターがお師匠様の方に向き直る。
「新人魔法使いさん――あんた、何者だ?」
「旅の魔法使いさね」
「旅の、聖級魔法使い、ねぇ……まぁ、詮索はしないのが冒険者の流儀だ。これ以上は聞かねぇよ。で、聖級が使えるってことは、誰にまで話していいんだ?」
「今後ともこの街でクリスの育成を続けるつもりだからねぇ。いろんな依頼を受けるだろうから、自然とウワサになるのは仕方ないが、自分から喧伝しようとは思わないさね」
「国へは?」
「ぜぇったいに知らせてもらいたくないね」
「……この領の領主様へは?」
「ごめんこうむりたいさね」
「はぁ……貴女のような優秀な魔法使いを秘匿してると、お上から嫌味を言われるんで、勘弁してもらいたいんだがなぁ」
「苦労をかけるさね、ギルドマスター殿」
「けっ……」
■ ◆ ■ ◆
「――お! お前は無能のクリスじゃねぇか!」
ご馳走になってギルドホールに戻ると、エンゾたち一行がいた。
「それに、無能なお師匠サマ!」
「昨日は世話になったねぇ、坊やたち」
お師匠様の挑発に、エンゾが顔を赤くする。
「んなっ、負け犬のクセに生意気言ってんじゃ――」
「そのことなんだけどね」
お師匠様が、その人形のように整った顔を、悪魔のごとき嫌らしい笑みで彩らせる。
「どうだろう、これからもう一回、勝負してはくれまいか?」
「ああん!? 何度やったって同じこ――」
「それは、どうかな? なぁ、クリス?」
お師匠様に話を振られて。
思わず僕も、ニヤリと笑った。
ギルドマスターの部屋で、ギルドマスターが頭を下げてきた。
「い、いえ……信じて頂けたのなら、僕はそれで……」
「欲のない男だねぇ。だが、追加で掃除した分の代金はもらうぞ?」
「ああ、もちろんだ」
力強くうなずくギルドマスター。
「詫びと言っちゃ何だが、もういい時間だから昼飯を奢らせてくれ。いろいろと、話さなきゃならないこともあるしな」
「だろうねぇ」
何だろう……?
お師匠様とギルドマスターが、ふたりしてこっちを見てる。
■ ◆ ■ ◆
「クリス、お前はできるだけ早いうちにCランクになれ」
「もがっ!?」
ギルドマスターがいきなりとんでもないことを言ってきたので、白パンを頬張ったまま変な声を上げてしまった。
「んぐっ……いやいやいや、僕、まだFランクですよ!? ひとりじゃ一角兎だって倒せないし、ましてや盗賊なんて……」
「ほう? よく勉強してるじゃないか。そうだ――Eランクに上がるにはホーンラビットを始めとするFランク以上の魔物の討伐実績が必要だ。
そして、Dランクに上がる為にはゴブリンを始めとするEランクの魔物を討伐する必要がある。
んで、Cに上がる為には護衛や盗賊討伐依頼で盗賊・犯罪者の討伐または捕縛を1件以上成功させなきゃならねぇ」
そう。そしてその『Cランク』というのが、実質的な『一人前の冒険者』って扱いになる。
オークやオーガみたいな強敵や盗賊を討伐できる、そういった敵から依頼人を護衛することができる実力の持ち主っていうこと。
それ以上のランクの冒険者となると、その人数は極端に少なくなる。
Bランクはまさしく一流という証で、この街にも指折り数えられるくらいしかいなかったはず。
Aランクはもう超一流と言うか英雄レベルの扱い。
で、その上にSランクってのがあるんだけど……いま、この国にSランク冒険者はいない。伝承では、先王様がSランクだったらしい。
「でも、なんで急にそんなことを……?」
「お前さん、自分の価値が分かってねぇのか? 街のドブを一気に【収納】するような遠隔【収納】持ちなんて、きっと国中をひっくり返したってお前以外にゃ見つからねぇぜ」
「で、でも、これはお師匠様の【万物解析】によるもので――」
「それは、確かにそうだ。だが逆に言えば、そこのお嬢さん以外にも【万物解析】持ちや、【万物解析】ほどでなくても【探査】に秀でた奴がいれば、似たようなことはできるだろう」
「――――……」
それは、確かに。
「だってのにいまのお前さんは最低ランクのF。周りの連中からカモにされちまうぞ?」
「ど、どうすれば……」
「だから、ランクを上げるんだ。いまのままだと、実力不足なD・Eランクの奴らに強引にパーティーに組み入れられる恐れがあるが、お前さんがCまで上がっちまえば、下位ランクからの勧誘は拒否する権限が生まれる。それに何より、高ランクのギルドカードは、それだけで変な虫どもには牽制になる」
「牽制……?」
「まずひとつに、Cランクの実力者相手に搾取してやろうと思い立つ奴が減る。そしてふたつ目として、Cランク以上の冒険者はギルドがしっかりと名簿登録して保護しているから、もし誰かから強請り集りを受けたときに、うちに助けを求めることができる」
逆にDランク以下は保護されていないのか……冒険者、分かっちゃいたけど、本当に危ない仕事だなぁ。
「特にお前さんのような、前衛向きじゃないが有用な奴ってのは定期的に生存確認も行ってる。ウチとしちゃ失いたくない人材だからな」
『失いたくない人材』――その言葉に、胸の奥がじわりと温かくなる。
本当に、冒険者登録してから、初めてそんな言葉をもらったんだ。
「とまぁ、クリス、お前に関しちゃ、まずはこんくらいだ。で、次は――」
ギルドマスターがお師匠様の方に向き直る。
「新人魔法使いさん――あんた、何者だ?」
「旅の魔法使いさね」
「旅の、聖級魔法使い、ねぇ……まぁ、詮索はしないのが冒険者の流儀だ。これ以上は聞かねぇよ。で、聖級が使えるってことは、誰にまで話していいんだ?」
「今後ともこの街でクリスの育成を続けるつもりだからねぇ。いろんな依頼を受けるだろうから、自然とウワサになるのは仕方ないが、自分から喧伝しようとは思わないさね」
「国へは?」
「ぜぇったいに知らせてもらいたくないね」
「……この領の領主様へは?」
「ごめんこうむりたいさね」
「はぁ……貴女のような優秀な魔法使いを秘匿してると、お上から嫌味を言われるんで、勘弁してもらいたいんだがなぁ」
「苦労をかけるさね、ギルドマスター殿」
「けっ……」
■ ◆ ■ ◆
「――お! お前は無能のクリスじゃねぇか!」
ご馳走になってギルドホールに戻ると、エンゾたち一行がいた。
「それに、無能なお師匠サマ!」
「昨日は世話になったねぇ、坊やたち」
お師匠様の挑発に、エンゾが顔を赤くする。
「んなっ、負け犬のクセに生意気言ってんじゃ――」
「そのことなんだけどね」
お師匠様が、その人形のように整った顔を、悪魔のごとき嫌らしい笑みで彩らせる。
「どうだろう、これからもう一回、勝負してはくれまいか?」
「ああん!? 何度やったって同じこ――」
「それは、どうかな? なぁ、クリス?」
お師匠様に話を振られて。
思わず僕も、ニヤリと笑った。