「陛下、反乱ですッ!!」

 王の朝食中に、上等な服を着た衛兵が食堂に転がり込んできた。

「何だと!?」

 王が不機嫌そうな顔をして立ち上がる。

「小銃で武装した市民が王宮を取り囲み、中には敷地内にまで入り込んでいる者もいる始末です!!」

「殺せ! 武装している市民は全員殺してしまって良い」

「そ、それが――銃を取ろうにも、その銃が消えてしまっていて、どこを探しても見つからないのです!」

「はぁ? いったい何を言って――」





「そりゃ、僕が全部ぜ~んぶ【収納】しちゃいましたからね」





「「「「「な……ッ!?」」」」」

 僕が急に声を発したものだから、王がびっくりして振り向いた。
 衛兵も、部屋に侍る使用人たちも一斉に僕を見る。

「なっ、貴様は誰だ!? いや、いつ現れた!? この城には【瞬間移動(テレポート)】を禁ずる結界が張られているのだぞ!?」

 ぶくぶくと太った王が、汚いつばを飛ばしてくるけれど、すべて【収納】した。
 ミッチェンさんから借りている一張羅を、汚すわけにはいかないからね。

「【瞬間移動(テレポート)】じゃなくて、普通に歩いて入ってきましたよ。正面玄関から」

「はぁ!?」

「ただし、気配を【収納】しながらですが。――【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】」

「「「「「消えた!?」」」」」

 僕はのんびりとテーブルに着き、料理をぱくつく。
 そして、気配の【収納】を止める。

「なぁっ!?」

 王が飛び上がる。

「ねぇ、ロンダキアの軍勢を丸っと【収納】されたのに、いまだに東王国へ講和の使者も出さず、こうしてのんきにお食事している愚かな愚かな王様。講和しません? 条件は無し。無条件降伏。そうしたらまぁ、命だけは助けて差し上げますよ」

「え、衛兵! 何をぼさっとしておるかッ!!」

 衛兵が慌てて僕のもとに駆け寄って来るけれど、

「【収納(アイテム)空間(・ボックス)】」

 その姿が消える。

「「「「「えっ!?」」」」」

「【収納(アイテム)空間(・ボックス)】」

 次に、使用人たちをすべて【収納】。

「な、な、な……き、貴様まさか、(ばば)ぁ――アインスの言っていた『クリス』とかいう(やから)か!?」

「いかにも、わたくしがお師匠様の一番弟子・クリスです」

 領主様から教えてもらった、貴族風の礼を取って見せる。

「あんなに美しいお師匠様を、婆呼ばわりは感心しませんね」

「なっ――貴様、余を誰と心得る!!」

「だから、状況把握もロクにできない、愚かな王様でしょう?」

 王が体重を預けていたテーブルと、その上の食事をすべて【収納】する。
 バランスを崩した王が椅子に崩れ落ちたので、今度は椅子を【収納】した。

「無条件降伏が嫌なら、わたくしがこの場で処刑して差し上げましょう」

 尻もちをついた王に向かって言う。

「何がいいですか? ――溺死?」

 王の頭部周辺の空間を区切り、その中を水で満たす。

「ぼがばぼがッ!?」

「それとも――…」

 水を消して、

「指先から順に、みじん切りにして殺して差し上げましょうか」
 
 王の指先から、数ミリずつ【収納】していく。

「ひっ――…え、な、なぜだ!? 痛くない!?」

「そりゃあ痛みも【収納】してますから。え? 痛い方がいいんですか? じゃあ」

 痛みの【収納】を止める。

「ぎゃぁぁああああぁぁぁぁぁあああああああッ!!」

 王の絶叫が余りにもうるさかったので、王を収納し、スライスされた指と、流れた血液を【目録(カタログ)】ですべて統合して、出現させる。

「――はっ!? ゆ、夢!?」

 王が、すっかり元通りになった手指を見て驚愕する。

「夢じゃありませんよ――ほら」

 今度は両手を【収納】。

「ぎゃああ――」

 もう一度【収納】し、手を繋げてやって出現させる。

「なっ、き、貴様――何が望みだッ!!」

「だから無条件降伏だって言ってるじゃないですか。頭、大丈夫ですか? あぁ、でも僕が勝手に処刑しちゃったら、怒ってる民衆たちが怒りのやり場を失って困っちゃうかな? ――【収納(アイテム)空間(・ボックス)】!」

 王宮が、僕らが立っている床だけを除いて丸々消滅する。

「ひっ――」

 王は宮殿が消えたことに対してか、はたまた王宮を取り囲んでいた民衆の殺気立った表情に対してか、失禁しだしてしまった。

 そして、王宮を取り囲んでいた民衆が、半数は驚きおののくものの、もう半分くらいは驚くのも忘れてこちらへ殺到しつつある。

「【収納(アイテム)空間(・ボックス)】」

 だから、王宮を戻した。

「大切なお師匠様をこの手で殺す羽目になって、僕はとても、とぉっても怒っているんですよ。でも」

 目の前に、手回し蓄音機を出現させる。蓄音機には、お師匠様の遺言レコードの、2枚目が乗せてある。

「僕以上に怒ってる人が、いましてね。その人からのメッセージを預かってるんで、心して聞いてください」

 蓄音機を回す。

『あー、あー……聞こえているかい、坊や?』

 麗しの、お師匠様の声だ。
 愚かな王は、がたがたと震えながら、お師匠様の声を聞いている。

『何十年にもわたって随分と儂を可愛がってくれて、ありがとうさねぇ。そんな感謝の念を込めて、取って置きのプレゼントを用意したよ。





 ……お前さんの死に場所、さね!!





 坊やにはふたつの道がある。革命軍に取っ捕まって縛り首になって死ぬか、儂の愛弟子に【収納】し殺されるかの、二択さね。
 ねぇ、坊や。いま、どんな気持ちだい? ――ぷっ、くくく』

 そこから十秒近く、お師匠様の心の底から楽しそうな、『愉悦』としか言いようのない、嗜虐心に満ち満ちた笑い声が続く。
 その笑い声が余りにも悪魔的に美しくて、僕はもう10回以上聞いちゃったんだよね。
 そうして、お師匠様が締めくくりの一言を発する。





『ざ、ま、あ、み、ろ…………ッ!!』