「おまえは よの けらいだ!」

 それは、若干5歳にして親を亡くし、王の座に押し上げられた子供だった。
 何も知らない、周りの誰もがおべっかを使ってすり寄って来る、自分を神の代行者だと信じて疑わない愚かな子供……アルフレド113世。


   ■ ◆ ■ ◆


「裸になれ。お前は余のものなんだから、言う通りにしろ!」

「儂は、あなた専用の奴隷ではないんですがねぇ……」

「なんだと!?」

 暗君としての片鱗は、王位について早々から見え始めていた。
 儂が何か口答えすると、すぐに蹴りが飛んできた。
 何度も蹴ってきて、儂の体が固いと叱責し、やがて学習して物を投げつけてくるようになった。


   ■ ◆ ■ ◆


「あいつ、内務卿の息子、この前、余よりも良い成績を取ったんだ。余の顔に泥を塗った! あいつを殺して来い!」

「あの女、余の言うことを聞かないんだ。あいつの意識を破壊して、余の操り人形にしろ」

(ばば)ぁめ! お前はいくら蹴っても殴っても、ちっとも苦しがって見せないから、面白くない。首を絞めても、指が痛くなるだけだ」


   ■ ◆ ■ ◆


「アインス、農奴どもを殺して来い。できるだけ派手に――そう、神の鉄槌、巨大な雷の魔法がいいな」

「なっ――坊や、話を聞いてなかったのかい!? あんたが命じた無茶な増税の所為で、首くくるか訴え出るしかなくなったから、こうして話が挙がってきているんだよ!? あんたそれを――…」

(ばば)ぁ、【契約(コントラクト)】に基づく命令だ!」

「ッ――…拝命致しました」


   ■ ◆ ■ ◆


「ふん……1ヵ月とは、随分と遅かったじゃないか」

「申し訳ございません、陛下」

「まぁ、これでようやく腰抜けの議会も宣戦布告に合意した。これで魔王国に、世界に、余の偉大さを知らしめることができる。世界に君臨するべきは、神の代行者たる余なのだから」

「仰る通りでございます」

「ふん……思ってもいないくせに。それで? その『クリス』とやらは余に忠誠を誓うのであろうな? 誓わぬのなら――…殺せ」

「ッ……………………御意」


   ■ ◆ ■ ◆


 ……なぁ、クリスや。儂の可愛い愛弟子や。
 願わくば、儂の恨みを晴らしてほしい。





 お前さんはきっと明日、儂を、この地獄から救ってくれるだろう。





 儂の苦しみも悲しみも全部、【収納】してくれるに違いない。
 けど、それだけじゃあ心残りがあるんだよ。
 あの王を、愚かで卑しいあの王に分からせてやりたい。
 自分が何をしてきたのか、思い知らせてやりたい。
 そうしてアルフレド王国を、マスターが守り育てたあの国を、腐った王室から解放してやりたいんだ。

 お願いだ。
 お願いだよ、クリス……。

 そのための仕込みは、済んでいる。
 アルフレド王国に反逆することができない儂の精一杯の抵抗として、いくつもの本の中に王室に対する告発を書き入れた。
 その本は、いまや魔法教本と一緒にアルフレド王国中に出回っている。

 抵抗は、成功した。

 王室は本に編み込まれた告発にようやく気づき、儂の本の流通を止め、燃やすよう命令を出したが、情報はすでに拡散を終えている。
 いまさら燃やしたって、かえってその内容が事実だと裏付けし、民衆の怒りを増幅させるだけさ。
 今日、久しぶりに王都を歩いたけれど、もう革命前夜といった様相さね。

 お前さんのおかげでたくさんたくさん稼がせてもらった(かね)は全部、革命組織の活動資金として流した。
 革命は、きっと成功する。
 けれど、『血の日曜日』事件を引き起こしたあの王だ。
 きっと多くの血が流れる。

 だからクリス、お前をここまで鍛え上げた儂への最後の恩返しと思って、儂に力を貸してくれ。
 無血開城とは言わないさ。
 腐った王侯貴族たちになら、どれだけ血が流れたって構やしない。
 けれど、平民側が虐殺されるのはダメだ。
 革命を手伝ってやってほしい。
 主だった革命組織についていまから話そう――…