目覚めると、空が薄っすらと白くなり始めていた。
 飛び起きる。

「ノティア! 僕はどのくらい寝てた!?」

「3時間ほど」

 膝枕してくれていたノティアが答える。

「えっ!?」

「まぁ、アタシらもさすがに大休止が必要だったからね」

 何やら食べながら、ベルゼビュート様が言う。

「夜通しの戦闘なんて、老骨にはほとほと厳しいよ……まぁ、前線の様子はレヴィアタンに見張らせているから大丈夫。で、お前の【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】は、神級に至ったってことでいいのかい?」

「【ステータス・オープン】――…は、はは……」


 *************************
 無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)LV10
 *************************


「スキルレベル、10です」

「あっはっはっ! 先王アリソン様が言うところの『カンスト』ってやつかい」

 ……恐らく、アリソン様の夢? 託宣? を見た直後に9になり、お師匠様の魔石を収納したときの負荷で、さらに10に上がったんだろう。

「神級……うふふ、クリス君。神様になってしまいましたわね」

「あ、あはは……そうだね」

「よし、目覚めたんなら当初の作戦通り、さらに西に進むよ」

「その必要はありませんよ、ベルゼビュート様」

「どういうことだ?」

「ここからは、僕ひとりで【収納】できますから」

 スキルレベルが10になって、色々と()()()()()
無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】をどのように使えば何が【収納】できるのか、手に取るように分かるようになった。

「ノティア、僕を空まで連れて行ってくれる?」


   ■ ◆ ■ ◆


 ノティアに手を取ってもらい、ぐんぐんと上昇していく。

「あれ? 寒くもないし息苦しくもありませんわ」

「僕が下の空間から大気を持ってきているからね」

「そ、それも【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】ですの?」

「うん。そんなとこ」

 やがて、ロンダキア城塞都市と砦が豆粒くらいの大きさで見えてきた。
 僕は指先で、いまから【収納】したい空間をくるりと囲む。
 すると、城塞都市と砦が真っ白な魔力光で覆われるのが見えた。

「な、何をしましたの!?」

「あの中はもう、僕の世界(アイテム・ボックス)だ。ほら」

 ノティアに【目録(カタログ)】を出して見せる。
 家屋や住民や兵器や軍人や……あの空間内に存在するありとあらゆるものが一覧表示されている。

「いま、あの空間の中は時間が止まってる。あとはこうやって――」

 もう1枚【目録(カタログ)】を表示させ、指で兵器・兵站・軍人をひょいっひょいっと移していく。

「こうすれば、【収納】したいものだけ【収納】できる」

「な、な、なんてこと――…本当に、本当に神様になってしまったんですのね、クリス君」

「ひとつずつ移すのは面倒だな……兵器・兵站・軍人・捕虜は集まれ!」

 念じると、【目録(カタログ)】の一番上に『アルフレド王国軍の兵器・兵站・軍人及び東王国人の捕虜』という文字が。
 僕はそれを、もう1枚の【目録(カタログ)】に移動させる。

「【収納(アイテム)空間(・ボックス)】を解除」

 と言うと、城塞都市と砦を包み込んでいた光が消えた。

「今頃、大混乱だろうね……終わったよ、ノティア。全部、終わった」

「まだ挙式が残ってますわ」

「僕はもう、弱くはなくなってしまったけれど……それでもいいの?」

「ここまで強ければ、一周回ってもう何も文句はありませんわ。家父長権も、もちろんクリス君のものです」

「あ、あはは……まぁ、ノティアに愛想尽かされないように、謙虚にやらせてもらうよ」





 こうして戦争は、始まらずして終わった。