真夜中、超精鋭部隊が西の森上空を西に向かってひた走る。
 メンバーは、

 四天王の皆様――
 結界魔法のスペシャリストで先王時代の生き証人・ベルゼビュート様、
瞬間移動(テレポート)】を始め多彩な魔法が得意なレヴィアタン様、
闘気(ウェアラブル・マナ)】がとんでもなく強い剣士のバフォメット様、
【片手剣】スキルが神級に達している巨体の剣客・アスモデウス様。

 フェンリスさんたちパーティー――
 言わずもがなフェンリスさん、
 前衛職で片手剣使いのアランさん、
 回復魔法のスペシャリストで攻撃・補助魔法も得意なバルベラさん。

 そしてノティアと僕。

 他の冒険者の皆さんは、城壁の上で警戒態勢を敷いてくれている。
 皆さんは【飛翔(レビテーション)】で自ら飛び、僕は情けないことにノティアに便乗している。
 フェンリスさんは、【闘気(ウェアラブル・マナ)】の乗った足で眼下の木々の上を器用に飛び移りながら移動している。

 作戦の要旨は、実にシンプル。

 僕の【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】でもって、ロンダキアに展開している軍――兵器・兵站・そして軍人を軒並み【収納】する。
 向こうで捕虜になっている東王国民も一緒に【収納】して救い出す。
 で、その軍人の命や兵器・兵站と言った財産を人質に、講和に持ち込むというもの。
 スキルレベル8になった僕の【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】は、数十体の風竜(ウィンド・ドラゴン)を難なく収納した。
 レベル6のときすでに人間を生きたまま【収納】できていたことを思えば、魔法抵抗値である【精神力】を持たない兵器・兵站は言うに及ばず、軍人だっていけるはず――でなきゃ全面戦争なんだ。やるっきゃない!
 そして【収納】する際には、僕とアリス・アインスがよくやっていた手段――【万物解析(アナライズ)】と【視覚共有(シンクロナイズド・アイ)】の組み合わせを使う。

 けれどここで、問題が出てくる。

 西の森を丸々飛び越えてロンダキアを探査できるほどの超広範囲【万物解析(アナライズ)】の使い手が、こちらに居ないんだ。
 ベルゼビュート様は結界魔法はお得意だけれど、【万物解析(アナライズ)】はそれほどでもないらしい。
 他の四天王も、それほど広範囲な【万物解析(アナライズ)】は使えない……というか、いかにアリス・アインスがバケモノなのかって話なんだろう。
 というわけで、【万物解析(アナライズ)】はノティアの仕事になった。
 そして、ノティアの【万物解析(アナライズ)】の効果範囲は、西の森の半分くらいまで、と言ったところ……まぁそれでも十分にバケモノクラスなのだけれど。
 そして、城塞都市ロンダキアをすべてカバーするとなると、西の森の中央部よりもかなり西側にまで入り込まないといけない。

 アリス・アインスはきっと、僕らがこの手で来ることを予測している。
 だってこの手段は、他ならぬアリス・アインスが僕に教えた奇跡なんだから。

 ……そんなアリス・アインスが、僕らの侵入を許すだろうか?


   ■ ◆ ■ ◆


 意外にも、西の森の中心までは何の妨害もなく進むことが出来た。
 けれど、中心を過ぎたあたりから急に天候が崩れ始め、あっという間に暴風雨が吹き荒れ始めた。

「【大嵐(テンペスト)】の魔法……アリス・アインスでしょうね」

物理防護結界(マテリアル・バリア)】で雨風を防ぎながら、ノティアが言う。

「うん……」

 アリス・アインスは常々攻撃魔法を『封じられている』と言われていた。
 理屈は分からないけれど、その封印が解かれたってことなんだろう。
 理由? そんなものは決まっている――僕らと戦う為だ。

 数分のうちに雨は鋭さを増し、ついにはそこかしこに雷が落ち始めた!!

「これじゃ命がいくつあっても足りない! 全員、降りるよ!」

 ベルゼビュート様の号令で、森の中に降りようとした、そのとき。

 ――一面の空が、真っ赤な魔法陣に覆われた。
 アリス・アインスの【万物解析(アナライズ)】だ!
 こちらの位置は、間違いなく補足されただろう……。

 戦いが、始まる。