だって俺よりも、彼の方が圧倒的に鈴の命に向き合ってきた期間が長いのだから。
否定でも肯定でもなく、一意見として受け入れるしかないのだ。弟くんにとっての覚悟がそういうものなら、またそれもひとつの形でしかない。
「で? 覚悟、あんの?」
絵と同じで、考え方まで共有するのは不可能だ。
きっと鈴なら、こういう場面でも臆さず自分の意見を伝えるのだろうけど。
「君は、おれに覚悟を持っていてほしいってことでいいのかな」
「持っているのかいないのかを聞いてんだよ。ほしいとかじゃなくて」
「ああ……でも、うん、ごめんね。君と同じ覚悟とやらの話はちょっと……」
──俺にはとても真似できないな、と思う。
そんな未来に待ち受ける『死』なんかよりも、今を見ていたい俺には、あまりに理解が及ばない。
「あんたはわかってないんだろ。もうすぐ死んじゃう姉ちゃんの彼氏になんかなって、そのあとどんだけつらいか。どんだけ、この現実が残酷なのか」
「…………」
「ここはさ、現実だから。アニメやドラマとかみたいに、奇跡が起こって命が救われるなんてことはないんだよ。有り得ないんだ」
そうだろうな、となにも答えないまま静かに目を伏せた。
奇跡が起きれば、と願う気持ちはもちろんある。けれども、それが起きると信じているほど俺も馬鹿ではない。現実は、いつだってそこにあるままが現実なのだ。
枯桜病は、そんなに甘い病気ではない。
「──姉ちゃんには気の毒だけど。申し訳ないと思うけど。でも、これからも生きていかなきゃいけないのは、あんたの方なんだ。つらい思いをするのが嫌なら、生半可な気持ちで……」
「そんなんじゃない」
さすがにそのさきは聞きかねて、俺はなかば被せるように否定した。
「……生半可な気持ちなんかじゃないよ、弟くん」
彼が、俺と鈴を想って忠告してくれているのはわかっている。
この状況下では姉のことを第一に考えたいだろうに、俺のことをこうして気にしてくれるあたり、とても大人だとも思う。
大人過ぎて心配になるくらいだ。
……昔の俺と、どこか似ているような気がする。
「鈴にはもう話したけど──六年前、俺は母親を亡くしてるんだ」
「えっ……」
「俺が小学六年生のとき。時期的にはたぶん、鈴が病名宣告を受ける一年前あたりかな。枯桜病ではないけど、末期の癌を患ってね」