なぜか俺は、周囲から『人形』だとか心のない人間だと捉えられることが多い。
家族でさえこうだ。だから、そうなのだろうと思っている。たしかに感情の起伏は少ない方だと自負しているし、実際に並大抵のことでは心を揺らすことはない。
……なかった。これまでは。
「もういいから、退いて。離れに戻る」
「ちょっと待って、詳しく聞かせてくれないの?」
「聞かせる必要性を感じないからね」
立ち塞がるハル兄を押しのけて、俺はさっさと廊下を歩いていこうとした。
けれど、ふと思い立ち立ち止まる。
迷いながら振り返ると、ハル兄はきょとんとした顔でこちらを見ていた。なんだかんだ言っても実はそんなに興味ないのか、と拍子抜けする。
結局、この男も春永の血を引くものなのだ。
「ねえ、ハル兄」
「なんだい」
「……枯桜病って、知ってる?」
ふ、と。ハル兄の顔から表情が掻き消えた。まるで、帳が落ちたかのように。
「知っているけど。それがどうかした?」
「……べつに。枯桜病のことを調べてて、ちょっと気になっただけ」
我ながら無意味な問いだった、と俺はふたたび踵を返そうとする。
それを訊ねたところで、ハル兄が治療方法を知っているわけでもない。
俺はいったいなにを期待したのか。
しかし、ふたたび足を踏み出そうとした刹那、パシッと腕を掴まれた。驚きながら振り仰ぐと、そこには背筋にぞっと寒気が走るほど冷え切った瞳があった。
「な、なに?」
「……どうして結生が枯桜病のことを調べる? まさかとは思うけど、おまえの付き合ってる人って──」
なんでこうも察しがよいのだろうか。
心底げんなりしながら、俺は掴まれた腕をほぼ力任せに強く振り払う。
「だとしたら、なに?」
「っ……結生! わかってるのか、あの病気は……!」
「死ぬ病だよ。知ってる。……俺の彼女も、もうそう長くないって言ってた」
ハル兄が目を剥いてはっと息を呑んだ。
「でも、だからなんなの。もうすぐ死ぬからって、なんでそばにいちゃいけないの。好きなのに、一緒にいたいのに、なんでそうやって死ぬことしか考えないわけ」
わからないのだ。
鈴も、俺から離れようとした。