至るところに放置されたままの作品に囲まれながら、窓から差し込む煌々とした茜に背を向けている女子生徒。空気を含んだ肩上の髪がなびき、横顔を晒す。
 ゆっくりと振り返った彼女の正体に、私はさらに硬直した。

「……さ、沙那先輩?」

「あなた、学校やめたんじゃなかったのね」

 開口いちばん、また突拍子もない発言だ。
 もしや私が知らないだけで、そういう挨拶が流行っているのだろうか。

「それ、さっきもユイ先輩に言われたんですけど」

 ツンとそっぽを向く彼女は、榊原沙那先輩だ。
 緩やかなウェーブを描く亜麻色の髪。赤系アイシャドウが濃いめに施されたメイク。怖いものなどなさそうな、キリリとした顔立ち。なによりその豊満な……胸。
 齢十八とは思えぬほど全身から大人の色気を滲ませる沙那先輩は、私を見て隠しもせず鼻白んだ。

「あっ、まさかユイ先輩に変なこと吹き込んだの沙那先輩ですか?」

「言いがかりね。一ヶ月も来てないならやめたんじゃない? って言っただけよ」

「やっぱりそうじゃないですか!」

 沙那先輩は、ユイ先輩の元カノだ。又聞きした話だが、私が入学する前、つまり先輩たちが一年生のときに、ほんの数ヶ月ほど付き合っていたらしい。
 美男美女。並ぶとすごくお似合いで、ほんの少し面白くない気持ちはある。
 だが一方で、引力が強い沙那先輩は悩みがちなユイ先輩を導いていけそうだし、実際相性はそこまで悪くないんじゃないかな、とも思っていた。
 まあ、口から流れるように零れ出てくる嫌味の嵐は玉に瑕だけれども。

「……それで、沙那先輩はこんなところでなにを?」

「あなたを待ってたのよ。ここにいれば会えるかなって」

「へ、私ですか?」

 思ってもみない返答に毒気を抜かれた。きょとんとしながら聞き返す。

「そうよ。昼間、あなたがいるのが見えたから」

「はあ……」

 沙那先輩は、どうやらユイ先輩と親しくしている私が気に入らないらしく、一年生の頃からなにかと突っかかってくる人だった。
 美術部員でもないし、私との接点なんてほぼ皆無。
 なのに、なにかと絡まれるおかげで、変な親交の深め方をしてしまっている。とはいえ、こんなふうに待ちぶせされるほど仲良くなったつもりはないのだけれど。

「あなた、今日、新学期になってはじめて学校に来たのよね?」

「あ、えっと、まあ」