「正確には、あの先輩と一緒にいるようになってから、かな。毎日楽しそうで、めちゃくちゃ幸せそうで……そんな姉ちゃん見てると、おれは弟のくせになにもできてないなって悔しくなってさ。それで先輩に当たった。ごめん」
「な、なにもできてないなんて、そんなこと……っ」
「ま、そりゃ、最大限サポートはしてるつもりだけど。そうじゃなくて、なんつーのかな。姉ちゃんを本当の意味で幸せにできんのは、結局のところ家族じゃないんだって実感したっていうか」
──私を、幸せにする。
幸せ、という言葉に直結して真っ先に頭に浮かぶのは、ユイ先輩だ。
つまり、そういうことか。
私が心の底から幸せだと感じて、心の底から笑顔になれるのはユイ先輩がいるからだと、自他共に認めるほど赤裸々になってしまったのか。
「家族には、またべつの役割があんのかもな。姉ちゃんが安心して帰って来れる場所として、姉ちゃんの幸せを見守る役割みたいなのがさ」
「っ……愁」
「だから、いいよ。おれのことは気にしなくて。たとえどう転がったとしても、姉ちゃんが幸せになれるなら、それが正解なんだ。あの先輩も、姉ちゃんの病気のこと知ったうえで姉ちゃんと付き合うって言ったんだろ?」
私は一瞬の間の後、こくりと顎を引いた。
そうだ。先輩はすべてを知ったうえで、私と一緒に出かけてくれた。
この間のように倒れてしまう可能性もあったし、ふたりきりで出かけるなんてきっと怖かったはずなのに、ちゃんと向き合ってくれた。きっとそこに嘘はない。
「なら、それなりの覚悟があるってことじゃないの。知らんけど。でもま、なんにせよそれを受け取っちまった姉ちゃんも、相応の覚悟を持つ必要があるんじゃない」
「う、ん……」
「まあもーすぐ入院だけど」
ほら立って、と手を差し出された。
ユイ先輩の繊細な白魚のような指先とは違う。幼かった頃の小さく柔い餅のような手でもなく、角ばっていて無骨な、大人になり始めた男の子の手。
──本当に、いつの間にこんなにも、大きくなってしまったのだろうか。
私はおずおずとそれを掴んで立ち上がりながら、寂しい気持ちを押し隠す。
「先輩ね、お見舞い来るって言ってたよ」
「へえ。最悪」
「あ、そういうところは変わんないんだ」