「ほんっと、うん、なんかよくわかんないけどごめん……」

 だって、まさか先輩があんな方向で攻めてくるとは思わなかったのだ。
 病気のことを知ってまで私のことを好きでいてくれて、あろうことか死ぬ未来がわかっていても共に居たいと──そんな危ういことを言われてしまったら、突き返すこともできなかった。当然だろう。私はユイ先輩が好きなのだから。
 私がずるずるとその場にしゃがみこむと、愁が一瞬たじろいだ気配がした。

「……ちょ、大丈夫? また具合悪くなったとか言わないよね?」

「うん、そうじゃなくて。なんかいろいろ、いっぱいいっぱいで……」

 はあ、とふたたび頭上で愁の嘆息が落ちた。
 そりゃそうだ。愁が安心できるようにユイ先輩から離れようと決意したはずが、むしろ状況をややこしくしてしまっている。
 しかも、わりと、取り返しのつかない方向へ。
 呆れられるか、はたまた怒られるか。なんにせよ降り注ぐだろう罵倒を覚悟していると、愁はなぜか私の前に視線を合わせるようにしゃがみ込んできた。

「……あのさ。おれはべつに、姉ちゃんから自由を奪おうとは思ってないんだよ」

「っ、え?」

「高校に通うのも、入院しないのも、たしかに反対したけど。でも、それで姉ちゃんが幸せになれるならそっちの方がいいのかなって……最近は思ってる」

 言いにくそうに言葉を濁らせる愁は、けれどもやっぱりつらそうで、まだどこか迷っているようにも見えた。
 言葉にして告げることで、自らを説得しているような響きすら孕んでいる。

「正直、正解がわからない。おれも、きっと母さんや父さんも、姉ちゃんがやりたいことはできる限りやらせてやりたいって思ってるんだ。でも、それと同じくらい心配で、少しでも長生きできるなら治療に専念してほしいとも思ってる」

「っ、うん。わかってるよ」

「けどさ。それで姉ちゃんから笑顔が消えるのは、また本末転倒なんだよ」

 自嘲に似た笑みを滲ませながら、私の視界の端で拳を握った。

「……私から、笑顔が?」

「うん。だって姉ちゃん、高校入ってからの二年がいちばんいい顔してんだもん。そんな姉ちゃん見てたらさ、なにがどう正しいのか、わからなくなるっていうか」

 ぐっと前髪をかきあげながら、愁はおもむろに立ち上がる。