私のうしろからひょこりと顔を出したユイ先輩が、持っていた紙袋を愁へ手渡した。

「え、なにこれ……って重!」

「私と先輩からのお土産だよ。選んでたら、楽しくていっぱい買っちゃって」

「それにしても買いすぎだろ。なにこのサメ」

「あ、可愛いでしょ、コバンザメ。ジンベイザメもいたんだけど、こっちのが愁っぽくて。ちなみにキーホルダーバージョンも買ったよ」

「おれのどこにこれの要素を見つけたんだよ。……いやまぁ、嬉しいけどさ」

 ありがと、と仏頂面で言いつつも、愁はしげしげとコバンザメの顔を眺めてなんとも微妙な反応をする。
 私と愁の体格差を考えたらジンベイザメなのだけれど、私のなかの愁は、いつまでも可愛いコバンザメなのだ。そうであってほしい、という願望ありきで。
 言ったら怒りそうだから、絶対に言わないけど。

「……春永先輩も。その、ありがとう、ございます」

「いや、俺も楽しかったし。今日は疲れただろうから、ゆっくり休ませてあげて」

「はあ。言われなくてもそうしますけど」

 なにかを感じ取ったのか、訝しげにユイ先輩と私を交互に見る愁。その察しのよさに冷や汗をかきながら、私は慌てて「じゃあ!」と話に割って入った。

「そろそろ私たち行きますね。先輩、今日は本当にありがとうございました!」

「こちらこそ。また連絡するから」

「は、はい……!」

 じゃあね、と私の頭をひと撫でしてから、ユイ先輩は私たちの帰り道とは反対方向へと歩いていく。
 ……今日一日で、何度撫でられただろうか。
 もしかして癖なのか。あるいは、撫でるのが好きな人なのか。
 いつもはなにかと世話を焼かれている印象があるのに、ああ見えて意外と庇護欲があったりするのかもしれない。それは些か、気恥ずかしいのだけれど。
 呆然と立ち尽くしながらユイ先輩の背中を見送って、私は両手で顔を覆った。
 ああ、まずい。これはよろしくない傾向だ。
 先輩がとてつもなく甘やかしモードに突入してしまったような気がする。

「……愁」

「…………」

「ごめん。終わりにできなかった……」

「だろうね!」

 はぁあ、と聞いたこともない全力のため息と共に、愁が頭をがしがしと掻き乱す。

「……しかも付き合うことになっちゃった……」

「朝の言葉はなんだったんだよ!? 一日気にしてたおれの気苦労返せ、バカ!」