唐突に、もう夏なのかと思った。あと半年もすれば、今年は終わってしまうのかと。

「半年ですよ」

「え?」

「私に残された時間。半年、あるかないかです」

 伊藤先生に、年は越せないかもしれないと言われた。
 そうノートに書いてあった。付箋とマーカー付きで。
 なんとなく記憶はあるものの、どうにも夢の出来事のような曖昧さで判然としないから、きっと過去の私が忘れないように付けたものなのだろう。
 現実はここにあるよ、と毎日忘れず振り返れるように。

「それでも今と同じことを言えますか、ユイ先輩」

 私はあえて突き放すように問いかけた。
 今日、私は、すべてを打ち明けるつもりで会いに来た。
 打ち明けてお別れをして、もう二度と先輩とは会わない覚悟でいた。
 だから、好きな人とのふたりきりの時間を、心の底から楽しんで過ごしたかった。
 私にとっては、もう二度と、一生訪れないであろう夢の時間を。
 だというのに、まさかユイ先輩も私と同じ気持ちを抱いていてくれるなんて。
 まして、そのことに先輩自身が気がついて、告白してくれるなんて。

 ──ああ、嬉しくない。

「別れは必然。はなから運命が定められたお付き合いになるんですよ? そんなのあまりに残酷な話じゃないですか。お互いに、つらいだけです」

 私が抱える運命は、現実は、変わらずそこにある。
 なのにユイ先輩は、なぜか私の言葉に迷いのひとつも見せなかった。

「それでも。君の命が残り半年だとしても、俺は俺の答えを覆さない」

「……先輩。その意味、ちゃんとわかって言ってますか」

「もちろん。あのね、小鳥遊さん。たとえ俺と君が恋愛関係にならなくても、この答えは変わらないから。俺は今までと変わらず君のそばにいるよ」

 あんなに『好き』の気持ちに対して消極的だったユイ先輩。
 にもかかわらず、そばにいることだけは異常にこだわっているようだった。執着に似た、並々ならぬ頑固さを感じる。
 その確固たる意思を前に、私は二の句を継げなくなってしまった。
 どうして、とそれ以上追及できなかったのは、さきほど先輩のお母さんの話を聞いてしまったからだ。だって先輩は、もう『死』がどんなものか知っている。
 知っているうえで──否、知ってしまっているからこそ、なのか。