そのすべてが混ざり合って、ひどく優しい音色を紡ぎ奏でていた。
もう手は繋いでいない。私が切り出すのを待っているのか、数歩うしろから距離を取ってついてくるユイ先輩は、さきほどからずっと黙り込んでしまっている。
「海が綺麗ですね、先輩」
「……うん、そうだね」
「真夏の海って、どうしてこうきらきらしてるんでしょうね。冬も澄んでいて綺麗だけど、やっぱり真夏は違った輝きがあるというか」
「…………」
靴底がじゃりっと地面を掠めて、背後でユイ先輩が立ち止まる気配がした。
さすがにもう伸ばせないか、と息を吐いて、ゆっくりと振り返る。
ユイ先輩はときおり吹きぬける夏の爽やかな風に銀色の髪を揺らしながら、私を見ていた。あまりにも思い詰めた表情で。
「そんな顔、しないでください。話ができません」
「え……ごめん。俺、変な顔してた?」
哀愁漂う眼差しにこちらまで切なさを募らせながら、私はゆるく首を振る。
「……あのね、先輩。私、もうすぐ死ぬんです」
「…………っ」
「枯桜病って、知ってますか?」
息を詰めたユイ先輩は、その長い睫毛を伏せながら、わずかに顎を引く。
「……病院で、少しだけ聞いて。調べた」
「あぁ、やっぱり聞いちゃったんですね」
「救急車で運ばれるときに弟くんが救命士に言ってたのと……病院ついてから処置されるまで飛び交ってたから。ごめん、聞くつもりはなかったんだけど」
「いえいえ。それは致し方ありません。むしろごめんなさいっていうか」
けれど、ならばユイ先輩は。
──私が枯桜病であることを知った上で、さっきの告白をしてくれたのだろうか。
「だけど、君の口から聞くまではって思ってた。これまでずっと隠してきた理由もわからなかったし。そもそも、俺なんかが聞いていい話なのかもわからなくて」
ふう、と重々しく一呼吸置いたユイ先輩は、ゆっくりと私の方へ近づいてくる。
「たくさん考えたよ。俺の気持ちを伝えるべきなのか、伝えず隠しておくべきなのか」
でも、とユイ先輩は私の目の前で立ち止まり、思いのほか強い瞳を向けてきた。
「伝えなかったらきっと後悔する、と思った」
「後悔、ですか?」
「そう。……俺は、これから先のことよりも今を大事にしたい」
私とユイ先輩を包みこむように風が髪を攫っていく。