「本当、小鳥遊さんて……なんか真っ直ぐ、だよね」
「え?」
「それがすごく、眩しい。だから、いつも君の周りだけは──」
先輩は途中で口を噤んだ。
ゆらゆらと視線を彷徨わせたかと思えば、おずおずと私の手を取っておもむろに歩き出す。明らかに様子がおかしい。
「せ、先輩?」
「……あ、あまり遅くなってもいけないから。次、行こう」
──今、なんて言おうとしたんだろう。
私の周りは、私は、ユイ先輩にどう見えているんだろう。
忙しなく音を鳴らす心臓がやっぱり痛い。
この痛みがなにから来る痛みなのか、私にはどうしても図りかねてしまう。
けれど今は、不思議と追及したいとは思えなかった。
◇
しばらくは気まずい雰囲気が流れていたものの、そこはやはりユイ先輩。
鑑賞コースもゴールに近づき、そろそろ最終エリアという頃には、もういつも通りに戻っていた。
このあたりはおもに小さな海洋生物が集められているらしい。
クマノミやエビ、タコなどの私でも知っているような生き物から、触ることも可能なネコザメまで、多種多様の生物が展示されていた。
そのうちのひとつ、天井を突き抜けるように設置された円柱型の水槽の前で立ち止まっていた私は、隣のユイ先輩を見上げながら告げる。
「先輩はクラゲみたいですよね」
クラゲ、海月。海の月。ユイ先輩そのものだ。
「……俺が?」
「はい。いつもゆらゆらふわふわしてて、どうも掴みきれないところとか」
そうかな、と先輩が不思議そうに小首を傾げた。吸い込まれるようにクラゲが揺蕩う水槽を見つめる立ち姿は、なんともまた絵になる光景で。
ついくすりと笑みを誘われながら、私はひっそりとこれを描こうと決めた。
しばらくクラゲを見ていたかと思ったら、先輩はふいに顔を上げた。
なにかを探すようにあたりをきょろきょろと見回して、ユイ先輩は「こっち」と私の手を引いて歩き始める。
「これ」
「……チンアナゴ? ですか?」
また海洋生物のなかでもマイナーな生き物の前で立ち止まったユイ先輩は、ふたたびじっとチンアナゴを見つめる。絵描きの観察眼がフル稼働しているような目だ。
そんなにこの子たちが気になるのか、と不思議に思っていると、ユイ先輩はふと満足そうに深くうなずいた。そして、ひとこと。
「君に似てる」
「え。こ、この子たちがですか」