いつにも増して真面目な顔で深くうなずいている先輩も先輩だけれど、私だって一応もう高校二年生だ。手を繋いでいないと危ない小さな子どもではない。

「あと、あんまり連れ回すなよ。姉ちゃん体力ないし、すぐバテるからな」

「わかった」

「ちょ、っとストップ! 過保護すぎだよ、愁!」

 私を心配してのことだろうが、さすがにこれは居心地が悪い。
 今回誘ったのは私の方だし、必要以上に気を遣わせたくはないのに。

「だいたい今日は、絵を描きに行くわけで、べつに動き回るわけじゃ……」

「ああ、ごめん。今日は絵は描かないよ」

「えっ」

 さらりと否定してきた先輩。
 どういうことだ。話が違う。と、混乱しながら視線を遣れば、ユイ先輩はなんてことないように朗らかな──わずかにそうとわかるほどの微笑を浮かべて告げた。

「今日は、絵を描くための素材を見に行く」

「そざい?」

「ええと……対象、の方がいいかな。今日見たものを夏休み中に描くんだ。美術部の活動の一環としてね」

 つまり、夏休み中の課題ということだろうか。

「ち、ちなみに、どこへ?」

「水族館」

「水族館!?」

 またしても、思いもよらない返答だった。
 ポカンとする私に、隣の愁がどういうことだと言わんばかりの視線を向けてくる。
 知らない。私の方が聞きたい。本当に、どういうことなんだろう。
 立ち尽くす私の手を、まるで当然のように取ったユイ先輩は、細身の腕時計で時刻を確認する。それもやはり銀製のもので、改めて先輩のこだわりが窺い知れた。

「二駅だからそこまで遠くないし、駅と水族館も直通してる。館内をのんびり見て回るくらいなら、問題ないよね……?」

「……まあ……」

「よかった。ちゃんと手は繋いでおくから、安心して」

 いやいやいやいや、と内心大パニックになっている私を差し置いて、愁は苦々しい顔をしながらも首肯した。そこで納得するのはおかしいのではないだろうか。

「せ、せんぱ……手、手は、大丈夫ですから!」

「なんで」

「なんで!?」

「嫌?」

 さすがに狼狽えて、金魚のように口をパクパクさせてしまう。
 そんなわけがない。嫌なわけがない。
 好きな人と手を繋げるなんて美味しい状況、いっそ土下座してでも続けたい。それほど夢にまで見たし、本心のところでは拝んででも甘えてしまいたいと思う。