おおかた、私と先輩がこうして時間を共にするのが気に食わないのだろうけれど。

「今日で最後だからね」

「え?」

「私が先輩を追いかけるの。今日で全部おしまいだから、今日だけは許して」

 はっきりとそう告げると、思いのほか愁は動揺したように目を泳がせた。

「……おれ、は」

「あっ、せんぱーい!」

 そのとき、待ち合わせ場所にすでにユイ先輩が立っているのに気づいた。
 私は思わず大きく手を振って、先輩を呼ぶ。
 あたりをきょろきょろと見回してこちらに気づいた先輩は、一瞬だけ目をゆっくりと瞬かせてから歩いてくる。愁も一緒だったことに驚いたのかもしれない。

「……おはよ、小鳥遊さん。弟くんも」

「おはようございます、ユイ先輩」

 無地の白Tシャツに黒のサマージャケット。下は黒のスキニーパンツというシンプルな服装をしているユイ先輩。学校でも基本的に黒のベストを着用しているし、やはり私服も一貫してモノクロコーデらしい。
 ふたつしか色味がないのに、ユイ先輩が着るとただのオシャレ上級者だ。
 顔か、スタイルか。いや、どちらもか。
 好きな人の私服を見れたことにドキドキしながら、私は口を開く。

「愁、心配して送ってくれたんです。ほら、ご挨拶」

「…………おはよう、ございます」

 むううう、と心の声が聞こえてきそうなほど、愁の顔に暗雲が広がっていく。けれど、一応返してくれたことにほっとして、私は宥めるように愁の頭を撫でた。

「見送りありがとうね」

「っ、軽率に撫でるなよ。おれだって、もう子どもじゃないんだから」

「はいはい。じゃあ行ってくる。なにかお土産買ってくるから、楽しみにしててね」

「べつに、いらないし。……帰りも迎えに来るから、ちゃんと連絡してよ」

 素直なのか素直じゃないのかわからないな、と私は苦笑する。
 姉バカとしては、こういうところも可愛いとしか思えないから困ったものだ。

「あと、あんた」

「……ん? 俺?」

「そうだよ。あんた……えっと、春永、先輩。一緒に出掛けるんだから、責任持って姉ちゃんのこと見ててよ。一瞬でも目ぇ離したら、なにするかわかんないからな」

 ん!? と私は仰天しながら愁を凝視する。
 今、サラッととんでもない子ども扱いをされた気がした。
 よりにもよって、三つ下の弟に。