第四章 「臆病だね、君は」

 なんとか無事に定期テストを終え、雪崩れ込むように夏休みへ突入した七月末。
 気温三十六度。相変わらず身をこんがりと焼き尽くすような暑さではあるものの、風があるぶん、いくらかはマシだと思えるような晴天の日。

 ──ユイ先輩との約束の日だ。

 薄青の空には、スポンジを叩いたような霞んだ雲がまばらに広がっている。
 絵として表現しやすくはありそうだけど、もう少し情緒的な写実さがほしいな、と生粋の絵描き脳が訴える。
 外を歩いていると、どうしても絵のことばかり考えてしまうのは悪い癖だ。
 先輩と待ち合わせをした学校の最寄り駅へ向かう最中、うーんと頭を悩ませていた私を横目で見ながら、隣を歩く愁が「姉ちゃんさあ」とぼそぼそ口を開く。

「本当に大丈夫なの」

「もー、大丈夫だって。朝からそれ八回目だよ、愁」

 同じく夏休み期間中の愁は、私がユイ先輩と出かけると知ると、わざわざ早起きして駅まで送りに来てくれた。
 それは素直にありがたいとして、この仏頂面はどうしたものか。