そこだけ空間が切り取られているような、独特な空気感。精巧な人形を彷彿とさせる彼の容姿を見た私は、すぐに彼が『春永結生』だと気づいて。
その月明りのような銀髪に、一瞬で目を奪われた。
前にテレビ局のインタビューで見たときは普通の黒髪だったはずなのに、という疑問よりも、そんな奇抜な髪色が彼らしいと感じたことに拍子抜けした。
銀。ともすれば、灰。黒と白の中間色。
鉛筆画家。否、モノクロ画家そのものだと感じた。
ああ、この人自身もついに染まってしまったんだと。あの色のない世界に生きているんだと。なんだかとても、寂しく思った。
「憧れの先輩がびっくりするほど近くにいたっていう幸運もあるけどね。私的には運命なんじゃないかって思うほど衝撃で、行かないっていう選択肢がなかったんだ」
たぶんあのとき、ユイ先輩へ抱く気持ちが塗り変わったのだ。
いつかこの人を越えたいという憧れや尊敬から、この人に近づきたいという好きの気持ちへ。一目惚れ、と言ってもよいかもしれない。
それだけ、ユイ先輩は強烈に私を惹き寄せた。
いつも絵だけを見てきた自分を後悔するくらい、強く、強く。
ただただ死を待つばかりだった私に、希望を芽生えさせてくれたのは──高校に行きたいと思わせてくれたのは、他でもないユイ先輩だった。
「本当にね、進学したのは正解だった。いいことばっかだったもん。本来の目的である先輩に会えたのももちろんだけど、ふたりとも仲良くなれたし」
家族を巻き込み、わざわざ月ヶ丘高校の近くに引っ越してまで叶えたわがままは、それだけの価値があるものだった。
「……鈴ちゃん……」
「っ、なんでそんなお別れみたいなこと言うのさ!」
かえちんは堪らないというように身を乗り出してくる。
むぎゅ、と顔を両手で包まれた。口がタコのように尖るのを感じながら、私は上目遣いでかえちんを見上げる。
深い皺が刻み込まれた眉、震える唇、濡れた瞳。
「あたしはずっと、この先もずっと鈴の友だちで、親友なんだから! 学校に来れなくなるくらいで終わるような関係じゃないんだからね!」
「か、かえちん……」
「そうだよ、鈴ちゃん。入院しててもわたしたち鈴ちゃんに会いに行くし、今日みたいに一緒に勉強会とかもしよう? 大丈夫、なにも変わらないよ」
「円香も……なんれそんらこと言っへふれるの」