「うん。先生に言われたんだ。……このまま病状が進行すれば、年は越せないかもしれないって。きっとそうだろうなって私も思ってたし、覚悟はしてたんだけどね」
「っ……!」
円香が瞬く間に眦に涙を溜めて、両手で口を覆った。
かえちんも聞いていられないといわんばかりに顔を背ける。
そんなふたりに曖昧な笑みを向けながら、私はそっと睫毛を伏せた。
「それに、さすがにもう私のわがままは終わりにしなきゃなとも思ったの」
「……わがまま?」
「ぎりぎりまで入院はせずに、学校に通わせてほしいっていうわがまま」
本当なら、高校も行かないはずだった。枯桜病を抱えた体で、他のみんなと同じように学校生活を送るのは、絶対的にリスクが高すぎるから。
それでも、先生や家族の反対を押し切ってまで、私が進学を決意したのは。
「──私ね。どうしても、ユイ先輩に会いたかったの」
──二年前。
中学三年生のときの絵画コンクールで、私は一度だけ金賞を獲ったことがある。
けれどもそれは、いつも私の上に太陽のごとく咲いていたユイ先輩が、中学を卒業して高校部門へ移ったからという明確な理由があってのことだった。
高校部門でも変わらず金賞を受賞したユイ先輩の作品を見て、私は心の底から敵わないと思ってしまった。もしも例年通り同じ部門に応募されていたら、自分は間違いなく銀賞だと確信できるほど、私とユイ先輩の間には形容しがたい差があった。
……目標だった金賞を得ても満足できなかったのは、私が金賞を目指していたわけではなく、ユイ先輩を越えることを念頭に置いていたからで。
とても、わがままだなあ、とは思う。
贅沢な望みだと。
それでも私は、先輩が見ているあの世界を見てみたかった。
だから、どれだけ滑稽でも、がむしゃらに追いかけていた。ずっとずっと、ユイ先輩の背中だけをひたすらに追い続けて生きてきた。
恋焦がれるほど憧れた彼と同じ立場で、同じ世界を共有してみたかった。
その先に、なにがあるのかなんて予想もできないけれど。
──そして私はその年、展示会場でひときわ目立つ人を見つけたのだ。
明らかに異質だった。
会場にいるくせにまったく展示絵に興味を示さず、壁に背を預けて、ただただ眠そうに舟をこいでいる男の人。