以前と変わったことといえば、体重は減っているはずなのに、体が重く感じられるようになったこと。それから、眠りがより深くなったくらいだ。
深く、深く、誰も到達したことがないような海底に沈んでいくように眠る。
きっとこうして水底に着いたとき、私は死ぬんだろうなと毎朝起きる度に考える。
眠っている間は夢もいっさい見ることなく熟睡しているから、不快感はない。
むしろ不思議なくらい心地がよくて、いっそこのまま眠ったままでもいっか、と思ってしまったりもする。
けれど、いざ目覚めたとき、生きていることを実感するとホッとしてしまうのだ。
そんな不安定さを、私は誰にも見せないようにしてきた。
家族にも、もちろん友だちや、ユイ先輩にも。
「やっほー、鈴。意外と元気そうじゃん?」
「よかったぁ。救急車で運ばれたって聞いたときは心臓止まるかと思ったよ」
自宅療養三日目。
夕間暮れになって家にやってきたのは、円香とかえちんだった。学校帰りで制服姿のふたりは、もう勝手知ったる様子で私の部屋に入ってくる。
「へへ、ごめんごめん。私も自分でびっくりしたよ」
部屋の中心に置いているテーブルを囲んで、三人で座った。
試験前のため、美術部は元より、円香の所属する料理部やかなちんのバレー部も休止期間に入っている。普段はなかなか学校以外で会う時間を作れないから、この機に三人で集まって試験勉強をしようという話になったのだ。
「ここ二日の授業ノートも持ってきたからね。わたしが文系科目、楓ちゃんが理系科目って分担して取っておいたんだ」
「選択授業だけは三人ともバラバラだから、ちょっとわかんないけどね」
「うわ、ふたりともホントありがと。わざわざごめんね」
ふたりとも高校からの友だちだ。高一のときにたまたま同じクラスになって、席が近かったことから一緒にいるようになった。
円香は見た目通りの、大人しくてほんわかとした女の子。
お菓子作りの腕前は一級品で、実家は洋菓子屋を営んでいるらしい。
かえちんはとにかくスポーツ万能で、バレー部のエースだったりする。
そんな彼女たちに私の病気のことを打ち明けたのは、去年の秋頃だった。
「なんか思い出すよねぇ。ふたりの前で倒れて救急車で運ばれたときのこと」
「笑いごとじゃないよ! あのときは、ほんっとにびっくりしたんだから!」