息が堰き止められたように詰まり、私は胸を押さえながら喘ぐしかできない。
 視界が霞む。意識が混濁して、自分がどこを向いているのかすらわからなくなる。
 なにこれ。知らない。こんなの、なったことない。

「ね、姉ちゃ……っ! あ、あんた! 救急車呼んで、早く!」

「救急、車……わかった。小鳥遊さん頑張って、今呼ぶから」

 私をふたたびベッドに寝かせた愁に、手を握られたのがわかった。
 薄れゆく意識のなか、大粒の涙を溜めて私の名前を呼ぶ、愁の姿が見えた。
 その先には、ユイ先輩がいる。
 銀が、脳裏に焼きついた。
 それはまるで、水のなかから遥か遠くの月を見上げているみたいで。

「──……小鳥遊さん! しっかり……鈴っ……」

 幻聴だろうか。ユイ先輩に、名前を呼ばれたような気がした。

「姉ちゃん、しっかりして。死なないでよ、ねえ、姉ちゃん……!」

 声が次第に遠のいていく。
 ごめんね、とつぶやけたのかどうかも、わからない。

 ──死にたいなんて、思っていない。

 一度も思ったことはない。
 私は、死にたくない。
 本当はもっと、もっと、もっと、生きていたい。
 もうずっと、生きたいと願って、死を受け入れながら、生きてきた。
 けれど、こうして周りの人の心に傷をつけていくのなら、せめてひと思いに死んでしまった方がよいのではないかと、そんな馬鹿げたことを考えたりもする。

 枝を離れた花弁の散り行く先など──。

 枯れた桜の末路など、きっと、はなから決まっているというのに。





 ピコン、ピコン。
 規則正しく鳴り続ける音に引き寄せられて目が覚めた。深い海の底から浮き上がった意識は、しばらく水面をゆらゆらと揺蕩ってから、ようやく光を浴びる。

「……小鳥遊さん?」

 なによりも先に視界に映りこんだのは、銀。
 ゆっくりと睫毛を伏せて、ふたたび開けてみる。そうして幻覚でないことを確認した私は、ひどく不思議な気持ちで、まだ痺れの後味を引きずる唇を動かす。

「……せん、ぱい?」

「うん。目、覚めたんだ。よかった」

「ここは……」

「病院だよ。君、学校で倒れて救急車で運ばれたの。そこまで時間は経ってないけど」

 病院。倒れた。救急車。
 ひとつひとつの単語をたっぷりと咀嚼し、やがて私は顔を青褪めさせた。なによりもここに、病院にユイ先輩がいるという事実が、私を動揺させる。