今の視線でいったいなにに納得したのか気になったが、次の瞬間にはもうユイ先輩の興味はこちらに移っていた。
「体調、どう?」
「あ、え、大丈夫です! なんかぐっすり寝てたみたいで」
「そっか。ならよかった」
先輩がいつになくわかりやすく微笑んだのを見て、私はつい感動を覚える。
「せ、先輩が成長してる……」
そんな私を見て、愁が早くもしびれを切らしたように渋面を向けてきた。
「もういいから帰るよ、姉ちゃん」
「あ、うん。そうだね」
しかしベッドから降りようとすると、なぜかがっくりと体から力が抜けた。
あやうく顔面から倒れこみそうになったところを、過去一で素早い動きをしたユイ先輩が受け止めてくれる。ひゅっ、と息が詰まり、私は思わず先輩の腕に縋った。
「あっぶな……」
「っ、姉ちゃん!」
そのままぺたりと地面に座り込んだ私の隣に、愁が慌ててしゃがみこんだ。その顔はいつになく焦燥感が滲み、その目尻にはうっすらと涙が浮かんでいる。
一方のユイ先輩も、私の肩を支えながら「小鳥遊さん?」と床に膝をつく。
「……どうしたの? やっぱり具合悪い?」
「い、いえ……なんか、力が、入らなくて」
あはは、と曖昧に笑ってみる。
けれど、自分が笑えていないことなんて明白だった。さすがの私も、突然のことに少なからず動揺してしまっているらしい。
ぎゅっと眉根を寄せた愁は、なにを思ったか私に向かって背中を向けてくる。
「乗って」
「え」
「背負って帰るから」
愁は中二にしてすでに私より背が高い。
とはいえ、さすがにここから家まではきついだろう。歩いて通うことが可能な距離ではあるが、それでも軽く二十分ほどは歩くことになる。
「……弟くん。それより、タクシーの方がいいよ」
そう告げるや否や、ユイ先輩は私をひょいっと抱き上げた。突然ふわりと体が宙に浮いて驚いている間に、ふたたびベッドの上におろされる。
内心、大パニックだ。
ユイ先輩に私を持ちあげられるほどの筋力があるなんて聞いていない。
「あ、あの、えっ、えっ?」
おろおろとユイ先輩を見上げて、さらに困惑する。
私を見下ろす先輩は、見たこともないくらい真剣な表情をしていた。
「具合が悪いなら、早く家に着いた方がいいし。今呼んでくるから、待ってて」
「は、え、でも」
「待ってて。弟くんは小鳥遊さんについててあげてね」