なるべく前向きに、ポジティブにいようと心がけているけれど、たまにどうしても囚われてしまいそうになるのだ。己が抱える運命の終着点を。

「だいじょーぶ! 元気元気」

 深海にずぶずぶと沈みかけた思考を勢いよく引き戻して、私は笑みを取り繕う。

「……カラ元気っていうんじゃないの? それ」

「うわあ。なんか愁、ユイ先輩に似てきたね。もともと似てるとこあるけど」

「は?」

 虚を衝かれたように、愁が男子にしては丸みを帯びた目をひん剥いた。

「やめてよ。おれ、その先輩ってやつ嫌いなんだから」

「会ったことないでしょ、愁」

「ないけど嫌い。姉ちゃんが先輩先輩ってうるさいから」

 ふん、と不機嫌に顔を背けて愁が立ち上がったそのとき、扉が開く音がした。
 先生が帰ってきたのかな、と愁と目配せしあう。しかし、こちらへ向かってくる足音に聞き覚えがあった私は、思わず「えっ」と戸惑いの声をあげた。

「……小鳥遊さん、起きてる?」

「ユイ、先輩?」

 やっぱりそうだ。カーテンの向こうでユイ先輩がホッと息を吐いた気配がした。

「入ってもいい?」

「も、もちろんです」

 愁があからさまに嫌そうな顔をしたけれど、まさか断るわけにもいかない。
 ゆっくりとカーテンを引き開けた先輩は、私を見てわかりやすく目元を和らげた。
 かと思ったら、隣にいる愁へまじまじと視線を移し、

「……中、学生?」

 ユイ先輩にしては非常に珍しく、動転した表情で尋ねる。

「っ、中学生で悪かったな!」

「あっこら! 出会い頭に噛みつかないの、愁!」

「……愁?」

 私と愁を交互に見比べて、先輩はさらに混乱したような顔をする。
 無理もない。高校に中学生がいるだけでも目立つのに、いきなりこんな嫌悪感まるだしな態度を取られたら、誰だって面食らう。

「あの、すみません先輩。この子、私の弟なんです」

「おとうと」

「はい。三つ下の中学二年生で……。今日は私のことを迎えに来てくれたんですよ」

 へえ、そう、弟……とぼそりとつぶやき、ユイ先輩は愁を頭の先から足の先まで食い入るように見た。
 まるで珍妙な生き物でも見つけたような反応に、私の方が困ってしまう。
 というか、ユイ先輩がこんなに他人を意識するのを初めて見たかもしれない。
 それから安堵したように胸を撫でおろして「なるほど」とうなずいた。