とはいえ、彼女が小鳥遊さんになにかと突っかかっていたことは、ずっと気にかけていた。そのうえでこの奇妙な反応となれば、後ろ暗いことがあるのではと疑うのも無理はないだろう。しかも、今の小鳥遊さんは具合が悪いのに。
「……なにか、したの?」
すうっと心が冷え切っていくのを感じながら、問いかける。
「はあ?」
「彼女になにか危害を加えたら、許さないよ」
もしも榊原さんが小鳥遊さんにしたことを隠そうとしているのなら、俺は無理にでも彼女を押しのけて小鳥遊さんの元へ行かなければならない。
そんな気迫に圧されたのか、榊原さんは呆気に取られたような顔をした。
けれど、すぐに切なそうに眉をキュッと寄せて顔を俯ける。
「ふうん。結生には、あたしがそんなふうに見えてるのね」
「……なに?」
「べつにいいわよ、あたしのことはどう思ってても。もう終わったことだし。……でもね、これだけは言わせてもらうけど。今のあたしはあの子の手助けこそすれ、危害を加えるなんて馬鹿なことはしないわ」
手助け、とはなんのことか。今度は俺の方が面食らって両目を眇める。
「なんでもいいけど、どいてくんない?」
「寝てるのよ。今はゆっくり寝かせてあげて」
「……べつに起こさないし」
「起きるわよ、あの子は。とにかく、その膝の怪我は救護室で手当してもらって。先生いないし、勝手に保健室の道具使ったら怒られるわ」
膝の怪我なんて、とうに忘れていた。
そんなことより今は、小鳥遊さんの様子を確認しないと気持ちが落ち着かない。
「……本当に、大丈夫なの?」
「ええ。少し体調が悪そうだったから、保健室に連れてきただけよ。ちょっと疲れが出ただけみたいだし、しばらく休めば大丈夫だと思う。一応、先生からお家の方へ連絡はしてもらうけど」
驚いた。
小鳥遊さんを連れて行ったという友だちは、まさかの榊原さんだったのか。
「あ、そう……ごめん、疑って」
「もういいわよ。あたしが前にあの子をいびってたのは事実だし、自業自得って思うことにするわ。断じて今はそんなことしないけど」
ツンとそっぽを向いた榊原さんの口調には、わずかに後悔の色が混ざっているような気がした。どこか思い詰めているようにも見える。
いったいどんな心境の変化なのだろう。やっぱり女子は、よくわからない。
「じゃあ、また後で来るよ。体育祭が終わった頃に」