自然と心が浮き上がるのを感じながら、俺はちらりとうしろのふたりを見る。
「……友だち?」
「あっ、はい! 円香とかえちんです!」
なんとなく聞き覚えのある名前に「ああ」と首肯する。
よく小鳥遊さんの話に出てくる人たちだ。
ひとりは、いかにも大人しそうな丸縁眼鏡の女の子。もうひとりは、日に焼けた肌とボブヘアがなんともボーイッシュな雰囲気を醸し出す女の子。
俯瞰してみると、三人の印象はまったく異なる。
中心に挟まれている小鳥遊さんと並ぶと、だいぶちぐはぐな組み合わせだった。
「は、初めまして、春永先輩。鈴ちゃんからかねがねお話は聞いてます」
「そりゃもう耳にタコができるくらいにねぇ。初対面なのにまったく初めてな感じがしないし。……あ、うちの鈴がいつもお世話になってます、春永先輩」
おそらく前者が『円香』さんで、後者が『かえちん』さんだろう。
そう見当づけながら、俺はひとこと「よろしく」と平坦に返した。
「あの春永先輩、そちらは……?」
「そちら?」
「俺だろ。忘れんなよ、バカ」
背後からバシッと頭をはたかれて、俺はようやっと隼の存在を思い出す。
珍しく静かにしていたから、真面目に忘れかけていた。
「あー……えっと、隼。俺の幼なじみ」
「おう、よろしくな。小鳥遊さんは久しぶり」
「はい、ほんとお久しぶりですね。相良先輩」
部活中、たまに気を利かせた隼が差し入れを持ってくるから、いつの間にやら顔見知りになってしまったふたり。
否、気を利かせたとは建前だ。以前『おまえの初恋相手に興味がある』とサラッと暴露してきたこともあり、俺はいまだにこのふたりを会わせたくない。
「……で、なにしてるのこんなところで」
「あっ私たち、屋上でご飯食べよっかなぁって……まあ、思ってたんですけど。御覧のとおり閉まってて。どこで食べようかって話してたところです」
なるほど、俺たちと同じ口か。
さすがに毎日同じ場所で活動しているだけあって、思考回路が被ったらしい。
体育祭の相乗効果でやたらと騒がしい校内。そんななか、落ち着いて食べることができる場所と言ったら、やはりここに限る。ただし、美術部員限定だけれど。
たったそれだけのことに心が浮き立つのだから、俺もたいがい単純だ。
そう思いながらも、ふふんと得意げに鍵を見せてみる。