長大な桜の木のおかげで大部分が日陰になっているし、アスファルトにありがちな太陽の照り返しもない。実際、そこまで暑さは感じないのである。
さすがに天気が芳しくない日は屋内のどこかに場所を移すが、人が滅多に来ないあの場所はなにかと快適なのだ。多少の寒暖は妥協するべし。
「ま、でも楽でいいだろ、高校はさ。中学んときみたいなガチっぽさはないし」
「走るじゃん」
「そりゃな。緩いだけマシだって。こういうのは楽しんだもん勝ちだ」
「そんな考えできてたら、そもそもこんなにダメージ食らってないでしょ。運動ってだけで地獄なのに。……はあ、俺も応援団がよかった」
あ? と、隼が奇妙な顔をしながら器用に片眉をつりあげる。
「結生って、ああいう熱血な方が苦手じゃね?」
「腕を振り上げずにテントの下でただ応援するだけの応援団ならマシ」
「なんだそれ。んなの外野だろ、ただの」
「……小鳥遊さんはそれが競技って言ってた」
わけわからんと隼が肩をすくめる。
「ほんとおまえ、小鳥遊さん好きな」
「本部の横のテントにいるって」
「じゃあ委員かなんかじゃねえの。救護係とか」
ああなるほど。それは盲点だった。言われてみればそうかもしれない。
「隼って、たまに頭いいよね」
「たまにって言うなよ。いちいち失礼なやつだな」
はあ、と大仰にため息を吐きながら、隼は俺を振り払う。
「俺は頭がいいんじゃなくて、たんに視野が広いんだ。おまえと違ってな」
「ふうん。どうでもいいけど」
ようやく校舎に辿り着き、強烈な日差しから逃れた俺と隼。
そのまま購買部へ向かうけれど、さすがに昼時なだけあって、入り口からすでに人でごった返していた。もうそれだけで憂鬱さが倍増しする。
「うっわ……これ入るの無理」
「ササッと行くんだよ、ササッと。素早くな。まあおまえには無理だろうけど」
「馬鹿にしてる」
「おう、してる。しゃーねえから買ってきてやるよ。おにぎりでいいか」
「うん」
「具はなんでもいいよな」
やはり究極の世話焼きだ、と俺はぼんやり思う。
バスケ部のエースらしく筋肉質でなかなかガタイのよい体型をしているのに、スルスルと人混みを掻き分けてなんなくおにぎりを強奪していく。
その様子を遠くから眺めながら、俺は素直に感心する。
俺には絶対にできない。