「だから、ごめん。今の俺、きっと君がいないとまた沈んじゃうんだ」
小鳥遊さんは呆気に取られたように硬直して直立している。その困惑に染まった表情すら可愛く見えて、俺は思わずふっと口許を綻ばせた。
「大丈夫?」
「っ……、いや、ちょっと、ダイジョバナイかも、です」
はっと我に返ったのか、おろおろと視線を彷徨わせた小鳥遊さん。そのまま一歩、二歩と小さく下がって俯くと、上目遣いで恨めしそうな視線を送ってくる。
「お、遅くなったら先輩のお家の方も心配しますよ……」
「うん。だから、連絡して」
俺はスケッチブックの端っこを切り割いて、素早く自分の連絡先を書きこんだ。
携帯番号とメールアドレスとチャットのID。SNSでもやっていればもっと連絡手段が増えたのかもしれないが、ひとまずはこれで充分だろう。
「時間になったら連絡して教えてよ、いつもみたいに。俺が沈んでても、たぶん小鳥遊さんからの連絡なら気づくから」
切れ端を渡すと、小鳥遊さんは面白いくらいにぽかんとした。
前に連絡先を知らないと言われたとき、なんでそんなことを見落としていたのかと愕然とした。いくら俺が電子機器に興味がないとはいえ、あまりに盲点だった。
なかなかタイミングが掴めずにいたものの、きっと不自然ではなかったはず。
「え、あの、いいんですか? こんな貴重なの……」
「貴重って。部長の連絡先知らない方がおかしいかなって思っただけ。ものすごく今さらだけどね」
普段、俺はあまりスマホを見ることはない。連絡してくるのは隼くらいだし、してきても大して重要なことだったためしがないから、見る必要性を感じなかった。
でも、これで放課後の活動時間以外の小鳥遊さんとの繋がりができる。
その小さな糸口でさえ、俺にとっては特別だ。
着信音って変えられるんだっけ、と頭の片隅でぼんやり考えていると、小鳥遊さんは感極まったように涙を滲ませた。
「先輩……っ! ありがとうございます! 大事にしますっ! 」
さすがにぎょっとして、俺は慌てながら首を横に振る。
「い、いや紙は大事にしなくてもいいから、ちゃんとスマホに登録しておいて」
「はい! 今すぐにっ!」
急いでいるのではとは思ったものの、なかなか嬉しそうにスマホへ俺の情報を打ち込んでいるから口が挟めなくなった。