「そうよ、ちゃんと自覚しなさい。結生を沼から引き上げて陽の光を浴びさせてあげられるのは、きっとあなたしかいないんだから」

 これはこうだと言い切る。沙那先輩の強いところだ。
 私とは、違う。私はこんなにも強くなれない。……なりきれない。

「あなたが病気だってことはわかった。けど、それとこれとは話がべつ。あなたが結生とどんな展開を望んでいたとしても、他人の気持ちだけは変えられないのよ」

 そこまで言うと、沙那先輩は今日初めて、小さな笑みを口許に滲ませた。

「結生はああ見えて頑固だから、きっと苦労するでしょうね。早いところ相応の覚悟を決めておかないと、そのうち痛い目にあって泣く羽目になるかも」

 突き放し、切り捨てるような物言いは相変わらず。
 けれど、そこにはどうしたって隠しきれない優しさが潜んでいた。

「それから。ちゃんと約束は守るから安心してちょうだい」

「約束……あ、病気のこと」

「誰にも言わないわ。ちなみに、他に知ってる人はいるの?」

「友だちの円香とかえちんは知ってます。隠してたけど、普通にバレました」

 沙那先輩は、なぜか可哀想なものを見るような眼差しを向けてきた。

「あなた、隠し事とか向いてなさそうだものね。まぁ、同級生に知ってる人がいるなら安心だけど。……なにかあたしにできることがあれば、頼ってくれてもいいわよ」

「はあ……えっ!?」

「なによ」

「せ、先輩が優しいことに驚いてます」

 ──言葉を選ばなければ、あまりの手のひらの返し具合に驚いています。
 すると沙那先輩は、かあっと顔を赤く染めて「心外!」と声を張り上げた。

「あ、あたしだってそこまで性格悪くないわよ!」

「だって、いつも嫌味を……」

「そ、それは……ああもううるさいわね! なんでもいいから、なにかあったら言いなさい。あたしは、あなたと結生が上手くいってくれないと困るんだから」

 ──でも、本当は知っていた。
 沙那先輩が私に意地悪なのは、ユイ先輩を想うがゆえのことだって。
 だからこそ、私はどれだけ苛まれても沙那先輩を本気で嫌いになれなかった。
 それどころかユイ先輩を任せても大丈夫だと思っていたくらいだ。なんだかんだ病気のことだって話したのだから、根っこの部分では信頼していたのかもしれない。

「ありがとうございます、沙那先輩」

「っ……」

「……本当に、ありがとうございます」