痛くて痛くて痛くて、仕方がない。

 その痛みに、示される。

 どうしようもなく、俺が今、鈴がいないこの世界に生きているのだと。

 生きていかなければならないのだと。


「……弟くん。俺は、鈴と出逢えてよかったよ」


 止まらない涙をそのままに、俺は顔をもたげて弟くんを見つめた。


「心から、そう思う。ずっと一緒に生きたかったし、もっとやりたいこともたくさんあったけど。でも、俺のなかには変わらず鈴がいるんだ。だから、鈴が棲みついた心と一緒に、俺は生きていくよ。生きて、生き抜いて、いつか再会したときに、今よりもっと色づいた世界を乗せた絵を、見せてあげたい」

「春永、先輩……」

「……そうやって誰かを想うってことも、絵を描く理由も、全部、鈴が与えてくれたものだから。まだ、きっと全然、空っぽなのは変わんないけどさ」


 俺の描いた絵のように、俺はまだ完全に灰色の世界から抜け出せたわけではない。

 数え切れないくらいの後悔を抱えて、足掻きながら生きている。

 けれど、そこを照らしてくれる鈴が俺のなかから消えない限りは、きっと歩き続けることができるのだ。道を示してくれる彼女がいるから、迷いはしない。

「だから、君も生きて」

「っ……よけいな、お世話だよ」

「うん。でも、これは鈴からの言葉だから。弟の君へもお裾分けするべきものだと思うんだよね。みんなで生きて、鈴との約束、守らなくちゃ」

 俺は下手くそに笑いながら弟くんの頭を撫でて、ふたたび鈴の絵を見上げた。



 ──ねえ、鈴。


 もしもいつかまた出逢えたなら、俺はきっともう一度、君を好きになるよ。

 春が来るたび、桜が咲くたび、君を偲びながら。

 枯れない桜を抱きながら生き抜いた先で、どうか君が迎えてくれることを祈りながら、願いながら、俺はこの世界で懸命に生きていくと誓おう。

 だから、俺がまた君を見つけるまで、もう少しだけ待っていて。

 愛してる。

 ……俺の世界でいちばん、大切な人。



【完】