「あんたと出逢ってからは、とくに毎日幸せそうだった。……去年のコンクール、姉ちゃんは最後だと思ってたんだ。結果を見て『結局最後の最後まで追い抜けなかったなぁ』って泣いてたよ。たぶん、コンクールで泣いたのは初めてだったね」
その声は俺と変わらないくらいに頼りなくて、ひどく震え交じりだ。
「けど、やっぱり、すごく幸せそうにも見えてさぁ……っ」
弟くんはゆっくりと俺を振り仰ぐと、頬に涙を流しながらへらりと笑った。
「──ありがとう、春永先輩。あんたのおかげで、姉ちゃんはずっと幸せだったよ」
「っ……!」
ああ、もう、だめだ。
「俺、だって……幸せだった……っ!」
とめどない涙を噛み締めるように拳を握りしめて、鈴の絵を見上げた。
やっと、今やっと、鈴の言っていた言葉の意味がわかった。
技術や独創性などを超越して人生を変えてしまうような力を持った絵。
鈴の絵は、まさしくそれだった。
こんなにも感情に満ち溢れた優しい絵があるなんて、俺は知らなかった。
「……なんで……なんで、鈴だったのかな」
どうしようもないとわかっている。
現実逃避だと、また鈴は仕方なさそうに笑うだろう。
それでも、どうしても、思ってしまうのだ。
どうして鈴が死ななければならなかったのかと。
鈴じゃなくたって、よかったじゃないかと。
「……もっと、一緒にいたかったよ……鈴……っ」
耐えきれない思いがこぼれて、こぼれ落ちて、俺は思わずその場に崩れ落ちた。
弟くんが焦ったように俺の背を支えてくるけれど、そんな彼もまた、俺と変わらないくらい泣いていた。
「そんなん、おれもそうだよ! 姉ちゃんと、もっと一緒にいたかった……っ! 今さら後悔したって遅いんだからなっ!」
「……後悔、なんて、してない……っ」
たしかに深い傷は俺の心に刻まれた。
でも、それでもなお、鈴と過ごした時間を後悔したことは一度もないのだ。
きっとこれからも、鈴と付き合わなければよかったなんて思うことはない。
俺にとって鈴と過ごした時間は、かけがえのないものだった。
鈴と出会っていなければ、俺はずっと灰色の世界でしか生きられなかっただろう。
人形と揶揄されながら、他人への興味も自分への興味もなく、淡々と単調に色のない世界を揺蕩っているだけだった。
けれど、今はこんなにも胸が痛い。