「……なんで、君たちがいるのかな」

 榊原さん、岩倉さん、綾野さん。鈴と親しくしていた三人だ。たしかに行きたい気持ちはわかるが、わざわざ一緒に行く必要はなかったのではないかと思う。

「いいじゃない。どうせなら一緒に行った方が楽しいわよ」

「そうですよ、春永先輩。あたしたちだって親友が金賞取ったかもしれないのに、呑気に春休みなんか送ってられませんて」

「お、お邪魔になってたらすみません……」

 強かだなと隣で笑う隼は、毎年のことだけあって、なんの緊張感もない。
 俺も毎年行っているはずなのに、今年は無性に心がざわついて仕方がなかった。昨晩もよく眠れなかったせいで、思考がやたらと散在して落ち着かない。

「……はあ」

 窓枠に肩肘をついて、俺は気休めに肺からため息を逃がした。

 ──鈴はもう、この世界にいない。

 その事実は変わらない。変わらないのに、こうして日々は変わらず過ぎていく。
 心にぽっかりと空いた大きな穴は──おそらく生涯拭いきれない深い裂傷は、それでもなお俺に生きろと訴えかけて逃がしてはくれないのだ。
 わかっている。
 どんなにつらくても、どんなに寂しくても、生きていかなければならない。
 俺はそう鈴と約束したから。鈴が安心して眠れるように、ちゃんと約束は守らなければ。そうでなければ、俺が下した決断がすべて否定されてしまう。
 でも、やっぱり、会いたい。
 鈴に、会いたい。
 俺はもうずっと、彼女に会いたくて、たまらない。



 いざ展示会場に着くと、なぜか隼が入口でみんなを引き止めた。

「俺はさ、気の遣える男だから言わせてもらうけど。別行動しようぜ」

「別行動?」

「俺たちはまず、入り口近くに展示されてる佳作や優秀賞の作品たちから見ていく。ゆっくりな。だけど、結生。おまえはひとりで先に金賞を見に行けよ」

 え、と喉の奥からかすれた声がこぼれる。

「仮に金賞が小鳥遊さんの作品だったとしたら、それはおまえへの贈り物だ。このなかの誰よりも先におまえが見る権利があるだろ」

 語気強めに言い募る隼の言葉に、女子たちが顔を見合わせてうなずきあう。

「……そうね。そうしましょうか」

「いいんじゃないですか? あたし、他の作品も色々見たいし」

「うんうん。わたしも!」

 でも、という声は、隼に背中を押されたことで遮られた。