もちろん嬉しくないわけではないけれど、ついつい拍子抜けしてしまう。

「あ、でも……」

 ふと榊原さんはなにかを見つけたように手紙を裏返した。まさかそんなところになにか書いてあるのかと驚愕し、俺にしては機敏な動きで素早く手紙を奪い返す。

「えっと──『贈り物、受け取ってくれました?』」

 そのまま読み上げると、シン、と静寂が落ちる。

「なんか受け取ったのか? 結生」

「いや……なにも受け取ってないと思うけど」

「じゃあどういう意味だ、これ」
 俺と隼が神妙に顔を見合わせたと同時、目の前で綾野さんと岩倉さんも顔を見合わせた。けれど、ふたりの表情はどちらかというと思案気なもので。

「そういえば鈴ちゃん……あれ、どうしたんだろう」

「もうとっくに完成してたよね?」

 なにか知っているのだろうか。知っているのなら早く教えてほしい、と俺が促そうとした矢先、今度は榊原さんが「そうだわ」と真面目な顔で声を上げた。

「え、なに?」

「あたし、結生に伝えることがあって探してたのよ」

「伝えること?」

 榊原さんがなぜか神妙な面持ちで浅く顎を引く。

「ここへ来る途中で、美術部の顧問の先生から呼び止められたの。あなたに会ったら伝えてほしいって。……その、絵画コンクールの結果」

「絵画、コンクール」

 ああ、そうか。そういえば、もうそんな時期だ。
 絵画コンクールは三月の上旬に結果が発表され、下旬には入賞作品の展示会が行われるのが通例である。今年も例年通りなら、そろそろ結果発表がある。 

 俺の場合は学校を通して出しているから、まず最初に学校へ通達が来るのだ。

「それはともかくとして、なんで今なんだよ。後でいいだろ。どうせ結生のことだし金賞に決まって──」

「銀賞」

「……え?」

「銀賞、だって」

 またもや空気が水を打ったように静まり返った。
 俺はその場で石像のごとく硬直し、同じく隣で硬まった隼はたっぷり数呼吸ぶん置いてから「はあ!?」と震撼したように絶叫する。

「結生が!? 金じゃなくて、銀!? 嘘だろ!?」

「し、知らないわよ! あたしだって伝えてほしいって頼まれただけで……!」

「春永先輩って、たしか五年連続で金賞取ってるすごい人、でしたよね」

「え、でも、そんな先輩を超える作品があったってこと?」

 その場の全員が、はてしなく気まずそうに俺を見た。