持つ手が震えて止まらない。読みたいという気持ちよりも、その現実を受け止めなければならないことが、ひどく怖かった。
自信がなかった。折れそうな気がした。
「まぁ……無理しなくても、また」
「だめよ。ちゃんと読んであげなさい」
空気を割るように飛んできた声に、俺たちは揃って振り返る。屋上を吹き抜ける風にスカートを揺らしながら仁王立ちしていたのは、榊原さんだった。
「あの子が、わざわざ今日って指定して託したものなんだから。小鳥遊さんのことを想うなら、それくらいの誠意は見せるべきだと思うけど」
突然の榊原さんの登場に、岩倉さんたちは面食らっているようだった。
隼は隼で「げっ」という顔をしている。
悪い子ではないのに性格がきついから嫌われがちで、いちおう元カレである俺も、いまだに彼女の気迫にはなかなか押されてしまう。
それでも、榊原さんの言葉はいつも正しい。
俺を絶対に逃がしてはくれない。そんな榊原さんはきっと俺と同じように不器用で、鈴と同じように真っ直ぐな性格なのだろうなと、最近は思えるようになった。
この子は誤解されがちだが、基本的に誰かを想っての発言しかしないから。
「……うん、読むよ」
俺は覚悟を決める。
鈴の死後、目に見える形で彼女のことに触れるのは初めてだ。俺は封筒を開けながらハサミがほしいな、なんて思って、芋づる式に鈴の前髪を思い出してしまう。
あのときの奇抜な前髪をしていた鈴は、純粋にちょっとだけ面白かった。
本人が気にしていたから整えてあげたけれど、いっそあのままでもよかったかな、なんて──そうして懐かしい思い出に浸ることも、今はまだ胸が苦しい。
ぐっと気持ちを入れ替えて、俺は開けた封筒のなかを覗き込む。
入っていたのは一枚。おそるおそる手紙を開いて、俺は言葉通り、ぽかんとした。
「……なんて?」
「……卒業おめでとうございますって」
「あとは?」
「……それだけ」
「えっ」
「へっ?」
「は?」
「ちょっ、と見せて!」
信じられないと言わんばかりに、榊原さんがやや乱暴に俺の手紙を横取りする。あ、と思う間に奪われた。そして榊原さんもまた、手紙を見て、同様に絶句した。
「……ほんとにそれだけじゃない……」
そうだ。手紙の中心部に、たった一行それが書いてあるだけだった。