私がそう告げると、ユイ先輩は少しの間を置いて「そうだね」とつぶやいた。
「なにか見つかりました? 先輩にとっての私がどんなものか」
「……俺にとっての、鈴。そう聞かれると正直困る。わからないというよりは、上手く言語化できないんだ。でも、気づいたことはあったよ」
「気づいたこと?」
私は体を起こして、隣のユイ先輩を見上げる。
微かに寂しそうな色を灯しながらも、先輩は私を見つめ返して目線だけでうなずいた。
「俺の心には、もう鈴が棲んでるんだってこと」
「……私が棲んでる?」
「うん。そして鈴が、俺の世界を照らしてくれているんだってこと」
私の頭を包むように撫でながら、ユイ先輩は穏やかに続ける。
「離れてる間、すごく寂しかった。時間の流れが、いつもの何倍も遅く感じて。毎日毎日、会いたくて仕方がなかった。でも、これだけ離れていても、俺のなかにはいつも鈴がいたよ。はっきりと感じてた。いつも俺のことを支えてくれてたんだ」
ふわりと冬初めの風が吹く。ユイ先輩はさっと立ち上がり、いつになく素早い動きで着ていたブレザーを脱ぐと、そっと私の膝にかけてくれる。
「……俺ね、鈴。絵を描けるようになったよ」
「絵?」
「色づいた世界を、描けるようになった」
私は思わず目を見開いた。驚きすぎると咄嗟に声も出ないらしい。
モノクロ画家と名高い先輩が、色を描く。
灰色の世界しか見えていないと言っていたユイ先輩が、色を──。
「……先輩の世界が、色づいたってことですか?」
声が、心が、震えた。
「うん。すべてではないけどね。でも、鈴が色をつけてくれたんだよ。鈴と出逢って──鈴があまりにも綺麗に輝いてるから、俺の世界も一緒に染められたみたい」
「私、が……っ」
「そう。鈴が俺の世界を変えてくれたんだ」
気づけば、頬に涙が伝っていた。嬉しいとか悲しいとか、そんなひとつの感情で表現できるような気持ちではなかった。ただただ、感極まってしまった。
心が打ち震えて、それ以上なにも考えられなくなる。
こんなに嬉しいこと他にあるだろうか。大好きな人の世界に、このうえなく影響を与えられるなんて。だってそれは、私がここに生きたなによりの証になる。
「君に泣かれると、俺はどうしたらいいかわからなくなるんだけど」
少し困ったように眦を下げて笑いながら、先輩が細い指先で私の頬を拭った。