「おまえだっていつまでも部長してないで、本当は受験に専念しないといけないんだよ。部員ひとり見かけねえ時点で、そんな話し合いも行われてないのは明白だけどな」

「うちは活動場所決めてないから。各自自由に、好きな場所、好きな時間に好きなものを描く。だから滅多に集まらないけど、きっと部員たちもどこかで描いてるよ」

「自由かって。いいのかそんなんで。絵画コンクールの二トップがいるってのに地味だなぁ。もっと自分ら利用して人集めしろよ。宝の持ち腐れ部め」

 二トップ、とは、俺と鈴のことか。
 そういえば前回、同じ高校から金賞と銀賞が出たと一部メディアで話題になっていたかもしれない。大して気にしたことはなかったが。

「まあ、俺も鈴もそういうタイプじゃないし」

「おまえはともかく、小鳥遊さんはもっと目立ってもよさそうだけど。てか、あの子の絵って綺麗だよな。素人目だけどさ、優しい色合いのなかにめちゃくちゃ感情が込められてて、ぐっと胸を掴まれるっていうか。俺、結構好きなんだよ」

「そう、だね。たしかに『緋群の空』はそんな感じだ。鈴らしくていい作品だった」

「ひ……なんだって? 空?」

「鈴のコンクールの絵」

 ああ、と隼が首肯する。
 持っていたビニール袋のなかから俺好みの緑茶を取り出し、おもむろに投げて寄越しながら、「去年のあれな」と唸る。
 ちゃっかりと隣に座ってくるあたりが隼らしい。

「めちゃくちゃすごかったよな、あの空。圧巻だったわ」

 秋のやや冷え込む風をもろともせず、隼は相変わらず半袖だった。この男はどこか狂っていて、なぜか気温が十度を下回らないと長袖を着ようとしないのだ。

「結生はまったく他の絵に興味持たねえけど、やっぱ入賞する作品って素人目で見てもスゲーのばっかなんだよね。優劣つけ難いしさ。でも、おまえと小鳥遊さんは、やっぱ毎年抜きん出て上手いよ。全地方見てもそう思う」

 隼はなぜか毎年、わざわざ展示会場までコンクールの絵を観覧に行くのだ。地方会場と都内会場のどちらも欠かさず。そして俺は半ば無理やり、それに付き合わされる。
 まあ大抵は隼が見て回っている間、おれはぼんやりと待っているだけで、まともに展示を見て回ったことはないのだけど。

「……ん、毎年? ってなに?」

「毎年おまえたちの絵が上手いってこと」

「鈴も?」