「じつは私も、先輩と離れてる間にやりたいことがあるんです。だから一ヶ月後、またふたりで答え合わせをしましょう」

「……そんなことして、なにになるの」

「わかりません。でも、きっと必要なことなんです。今はすごく幸せですけど、幸せだからこそ、真正面から先輩とぶつかって向き合いたい。そうじゃなきゃ後悔……いや、未練になりかねません。さすがに未練を残して死にたくはないので」

 そう言うと、ユイ先輩は絶望を浮かべた顔をしながらも押し黙った。
 優しい人だな、と思う。本当に優しいから、心の底から私のことを想ってくれているから、私のこの突拍子もない考えを無碍にできない。
 そんな先輩の優しさを利用している私は、やっぱりよい子にはなれないけれど。

「……電話とか、メールとか、チャットとかは」

「うーん。電話はだめですけど……それ以外はゆるくいきますか」

 変に真面目な性格な先輩のことだ。あまり離れすぎても逆効果になりかねない。
 そう判断すると、ユイ先輩はさもわかりやすく胸を撫で下ろした。

「じゃあ先輩、また一ヶ月後に──」

「待って」

 ユイ先輩は私の言葉を遮ると、そっと頬に手を添えてきた。
 突然のことに驚いて仰ぎ見ると、不意に唇へ柔らかいものが重なる。その一瞬、世界のすべてが真っ白に染まったような気がした。

「っ……」
 ほんの刹那の出来事。だけれど、永遠にも感じられる時間。キスされたのだと頭が理解した瞬間、全身が沸騰したのかと錯覚を覚えるほど熱くなった。

「せ、せん、せんぱ……っ」

「しょうがないから、これで妥協してあげる」

 ユイ先輩の細くひんやりとした手が、ふわりと私の髪を梳く。
 そのままぱっと踵を返した先輩は、病室の扉に手をかけながらちらりと振り返る。

「……答えが出るかはさておき、ちゃんと考えるよ。それが鈴の望みならね」

「っ、は、はい」

「じゃあまた、一ヶ月後。約束ね」

 そう言い残して、ユイ先輩は病室を出ていった。今のはもしかして先輩なりの意趣返しだとか、しばらく離れるゆえの充電だとか、そういう──。
 ばくばくと明らかに異常な音を叩き出す心臓。思わぬところで「私、意外と平気なんじゃ」なんて妙な希望じみたことを思うけれど、もちろんそんなわけもない。

「……ほんと、ユイ先輩はずるい人です」

 自分で言い出したくせに、すでに寂しい。