「関係あるわ。ありまくりよ。あなたがそんなんだとこっちの気が休まらないんだもの。相変わらず絵ばっかり描き続けて──このままだと廃人になるわよ!」

「…………。はぁ、ほんと……最近そんなのばっかだな」

 面倒くさそうに嘆息したユイ先輩は、珍しくいらいらしているようだった。あまり見たことがない姿に戸惑いながら、私はおそるおそる声をかける。

「せ、先輩? どうしたんで……」

「進路ってそんなに大事?」

 私の声を容赦なく遮り、ピリリと棘のように鋭さを持った声が空気を切る。その矛先は間違いなく榊原さんのはずなのに、なぜか私にも向けられている気がした。
 自然と喉の浅い部分で引っかかっていた言葉を、こくりと飲み込んでしまう。

「べつにさ、俺がどの道に進もうが勝手でしょ。うちの親は放任主義だし、家を継がないなら好きに生きろって言われてるんだよ」

「っ、でも」

「どちらにしても、榊原さんにいろいろ指図される筋合いはないと思うんだけど」

 ユイ先輩、と声をかけようにも、なんだかいつもの先輩ではないみたいだ。
 受験生は往々にしてピリピリとしていると相場が決まっている。
 だが、それがユイ先輩となれば話はべつだ。
 彼は普段から、感情の起伏が少ない人だ。とりわけ〝怒り〟に関しては顕著で、人前で露わにするようなことは滅多にない。

「あ、あなたが進路のことを考えないのは、小鳥遊さんのことがあるからでしょっ!」

 どくん、と──心臓が、とてつもなく嫌な音を立てた。

「未来のことなんかどうでもいい? そんなわけないじゃない! 自分がこの先どの道を歩いていくのか、なにをして生きていくのか、それを考えずにいられるほど、あたしたちはもう子どもじゃないのよ! あなたはただ、逃げてるだけ!!」

 ──私も薄々気づいていたことを、沙那先輩が激情に乗せて言い放つ。
 それは涙声だけれど、慟哭に近いものだった。
 ひりひりと、いつもと同じはずの病室の空気がやけに冷たく打ち震えた。

「小鳥遊さんの存在が大事なのはわかる。でも、彼女を言い訳にしてあなたがまた人形に戻るのは見てらんないの。そんなの、小鳥遊さんが気の毒だわ!」

「……はあ? 鈴を、言い訳に? 俺が?」