「うん」
「そうか。優しい?」
「優しいよ。本当にいい人で、私にはもったいないくらい」
「そりゃあ良かった。夏菜子が幸せでいてくれて良かったよ」

 永は、と聞こうとした口を噤む。永がここにいる、ということは……。

 私たちは、顔も、声も、住んでいるところも、知らなかった。だから、今笑いかけてくれている顔は本当に喜一そのもので、知らない顔の永とは重ならない。

 それでも、笑い方一つで違う人だと分かる。大人しく微笑む、そんな笑い方を喜一はしなかったから。

――笑お! 嫌なことがあったらたくさん笑わなきゃ。
――面白いこともないのに 笑えないだろ。

 いつか、そんなやり取りをしたことを思い出す。だから、だからだろう、あの日をなぞるように口にしていた。

「笑お。嫌なことがあったらたくさん笑わなきゃ」
「……面白いこともないのに、笑えないだろ」

 喜一の声。けれど、喜一はそんな低い声で言わない。
 私は、本当に永に会えたのだ。実感した時、自然と涙が頬が伝う。