とりあえず私たちはベッドから出て、永が作ってくれると言うからソファーで待っていると、両手にマグカップを持って横に腰かけた。

 渡されたココアの匂いが鼻腔を掠め、一口飲んで「美味しい」と感想を伝える。
 本当に、何を話したらいいのか、分からない。

 私たちの間には十年という長い年月が経っていた。話せることは山ほどあるのに、その長い年月が溝となって上手く口を動かせない。
 チラリと彼に視線を移すが、彼も同じようでココアをちびちび飲み続ける。

「……喜一は、どうなったの?」

 容姿そのものは喜一だから傍から見れば喜一本人に聞いているようにしか見えない。そう思うと少しだけ可笑しかった。

「今も眠ってる状態だよ。俺が起こせば肉体と脳そのものはこの人のものだから、戻ってくる」
「そう……」

 安堵する。それを見て、永はココアをテーブルに置くと笑いかけてきた。

「結婚したんだな」

 左手の薬指にはめられた結婚指輪を小突かれる。喜一とお揃いで交換し合ったその指輪は、一年も経つと傷だらけになっていた。