翌日、休日だからといつも通り寝坊助をしている喜一の寝顔を眺めていると、可愛い姿に胸がときめいた。ただ寝ているだけなのに可愛い。カーテン越しに入ってくる淡い日差しに照らされた頬。

 あ、今の内に写真撮っちゃおうかな。ベッドの傍らに置いたスマートフォンに手を伸ばす。

「夏菜子」

 名前を、呼ばれる。私の手は固まり、呼吸も止まった。
 秒針を刻む音。外から鳥の鳴き声が聞こえてくる。

「夏菜子」

 もう一度呼ばれ、呪縛が解けたように、私は息を吐き出し、はあはあ、と荒い呼吸で、動かせるようになった手を引っ込め、目を開けた喜一……男を、見つめる。

「喜一……?」

 永、と呼べない弱い自分を恨みそうになる。

「誰か分かってるだろ?」

 そう問われてしまえば、ああやはり、と私は諦めに似た、あるいは少しだけ嬉しいような気持ちになってしまう。

「……永……」
「そうだよ。よく分かったね」

 分かるよ。そりゃあ、分かる。
 きっと何年経っても、私は君を忘れない。
 自然と熱いものが込み上げ、顔を隠した。