薄々、考えていたことだった。心臓移植を施した人に、元の心臓の持ち主の趣味趣向が現れると聞いたことがある。
 けれどドナー相手のことは教えて貰えない。だから、どこの誰なのかは分からない。

 時計の秒針の音がやけに大きく響く。私の心臓の音のよう。
 向き合った男は、今どちらなのか。言いたい名前を、必死にこらえ「喜一」と呼ぶ。

「喜一は、その……人が変わったって言われたて、思い当たる節がなかったの?」
「うーん、よく寝たって感覚になるんだよ、たまに。たぶんその時に変わってるんだろうな。まあでも大丈夫、俺の体に馴染んだらそれもなくなるかもしれないし」

 ホッと、胸を撫で下ろす。私は安堵していた。一方で怖くも感じている。

 もし、心臓の持ち主が彼……永だったら。
 次に会った時、私は何を話そう。いや、それよりも謝った方がいいだろうか。

 永。

 テレビの電源をつけ、のんびりとした時間がまた訪れる。喜一の笑い声を聞きながら、胸騒ぎが収まらなかった。